浮気をして離婚の原因を作った母親が親権をとれますか。
浮気をしてしまい、夫と別れることになりました。夫との間に3歳の息子がいるのですが、双方親権の獲得を希望しています。しかし、夫の言い分としては、「他に男を作るような最低な母親に子どもを任せることはできない。しかも専業主婦で稼ぎもないくせに、どうやって育てていくつもりなんだ。そんな母親に裁判所だって親権を認めるはずがない」といわれてしまいました。
Step1.浮気した女性が親権をとること
臨床を扱っていると、ほんの一部のことを全部のことのようにいうことがあります。これは司法書士や行政書士は家裁代理権がありませんから、家庭裁判所に持ち込まれる事件を全く知らず、主には本で得た知識に基づくことしかできないからです。また、家庭裁判所に持ち込まれるのは、ある意味紛争が成熟したもの、ということです。
横浜市の児童養護施設では、約9割が女性がこどもを捨てて出ていき、父親のみの父子家庭でこどもを育てきれなくなりあずけた例がほとんどという実態があります。
アメリカでも不倫をした女性には母子優先の原則は妥当せず、親権を父親に認めることが多かった時代が単独親権時代にはあったといわれています。(現在はほとんどがアメリカは共同親権に移行しているため)
したがって、女性の側も本気で親権の獲得を目指されるのか、よく考えられた方がいいと思います。現実に児童養護施設には不倫に走って母親に捨てられたこどもがたくさんいるのです。裁判所が味方をしてくれそうだから、は、こどものためになるのかよく考えてみましょう。よく母親の方が心理的ニーズに応えられるといわれますが、母親も離婚後は働きに出ますので、心理的ニーズにはこたえられなくなるのが実情です。ですから、自分の監護補助者の有無などペーパーだけではなく本当に監護補助してくれるのか、など検討なされる必要があるでしょう。
以下の場合は、慎重に検討した方が良いでしょう。
・実家の理解が得られない。
・実家がない
・兄弟姉妹と仲が悪い
・やりたい仕事がある
・相手方父親が資産家でこどもを十分任せられるし、長い目で承継できた方が幸せ
・相手方父親の両親が健在で監護補助者がいること
・不倫した男性と別れるつもりはない
・率直に、養育費と児童扶養手当目的と生活保護受給目的であること
・学費等は別れた旦那にすべて支払ってもらおうと甘く考えている
このような場合、そもそも親権者は、経済的に庇護することはもちろん、精神的にもこどもを庇護しなければなりません。また、養育費は義務といっても、高額な養育費の支払いは認められません。つまり、全体的な子の幸福を考えると、大学への進学確率なども考えて、ましてや養育費や児童扶養手当目的で親権を取得するということは止めましょう。子育てにもビジョンが必要です。どのような教育を受けさせるのかなど一義的には親権者がすべて決めますが親権者にその能力、熱意、経済的バックボーンがない場合は、夫に親権者となってもらい、自己は面会交流権を行使するという考え方もあり得るでしょう。
実際、昔は女性はこどものために生活を切り詰めて自己犠牲でこどもを育てるといわれていました。これに対して男性は、なかなか生活を変えられないのでしわよせがこどもに来ることが多いと福祉の現場ではいわれていました。しかし、最近は女性も、なかなか生活を変えられず、結果的にこどもを不幸にする人が多くなってきたと福祉の現場から指摘されています。元夫の資産を安易にあてにするのであれば、そもそも親権者になること自体、考え直すということもあり得るかもしれません。
これは、ポジティブにも考えられます。その女性の自己実現を図りたいということですから、近時では理解される考え方でもあります。ニュース23の雨宮塔子さんは、キャスター就任に際して、親権者変更のようなことをして、こどもたちを元夫に引渡し、こどもたちとも離れて日本の第一線で働いています。
そもそも、親権が欲しいのは、なぜなのか、ということをよく突き詰めないと、母子家庭の貧困率も踏まえると、こどもの福祉に影響が出ることもあります。一時の激情に任せて声高に親権取得を主張するのではなく、将来を見据えて大学生まで育て上げることが、自分ひとりの力でできるのかをまず考えてみることも大事です。この点、離婚後の経済的事情については、フィナンシャルプランナーに相談されることも増えましたが、親権についてもこどものクオリティオブライフを考えてみる必要もあるのではないでしょうか。極端な例ですが、私が担当した例でも、施設に入所している場合は児童扶養手当がもらえないため、10歳のこどもを祖母から引き取り児童扶養手当を二人分もらうためだけに人身保護請求を起こしてきた人がいましたが、ギリギリのところで、当方がそれを見破り、母の愛情に基づくものではないと主張して、人身保護請求が「劇的」に棄却されるということがありました。こどもには、こどもの幸せがあるのです。また、精神疾患のある母親のもとで育ったこどもの精神的情緒の安定や学業の成績が否定的であるという臨床研究が公表されています。このような自身の体調も考慮するべきでしょう。
Step2.親権者は母親に認められる可能性が高い
裁判所が両親のどちらかに親権を与える場合、特に2~3歳くらいまでのこどもについては「乳児母子優先の原則」が働きます。これは乳幼児については、「一般的に」母親に監護させるのが、その子の福祉にかなうため母親に親権を認めるべきというものです。しかし、一般的な事例は裁判所には持ち込まれないので、過去の監護実績、現在の監護実績などに基づく「子の監護の安定性」も考慮要素になっています。
妻の不貞行為は、こどもから父親を奪う行為でもありますから、社会通念上は父に対する裏切りのみならず子に対する裏切りと考えて差し支えないでしょう。最高裁も特段の事情がある場合は、子は不貞相手に慰謝料請求できる余地を残しています。
Step3.浮気相手との関係を優先する場合は親権は認められない
不貞行為にとどまらず、
・相手の男性を頻繁に変えてこどもに会わせる
・自宅でセックスを繰り返す
などの場合は親権者として不適格でしょう。以前、少年から母親が知らない男とセックスをしているので、父方に移転したいとの意向を有しているので親権者変更を申立て、認められています。
また、浮気相手との関係を優先して育児放棄をするなど、子の心身発達上を及ぼすような影響がある場合は、たとえ母親が主たる監護者でも親権は否定されます。ある調査官報告書では「母親は時に無思慮でこどもの立場に立った行動ができなかった」と指摘し、アルバイトばかりしていた主たる監護者である母親の監護権を否定した事例も経験しています。
Step4.子の意向
15歳以上は必要的ですが、通常は、親権争いないし子の奪い合いになるのは、14歳以下です。
7歳以上の場合は、こどもの心情や意向が聞かれることが多いのですが、
・小さなころは、調査官報告書を現在の監護親も読むので、自分の意見が正直にいえているとは限らない
・7~10歳くらいのこどもの意向は、裁判官の意向に沿うものだけ採用される程度で、あとはあまり重視されない
・こどもが明晰に意思表示をする10歳程度になってくると、子の意向を家庭裁判所は安易に否定できない
・基本的に、こどもは、パパもママも好きというような発言をすると、現在の監護親で問題ない、心情に反しないと判断しがちです。
いずれにしても、時代も変わりつつありますが、監護親になる人は、こどもには非監護親を尊重し、「特別な時間」をつくるという意味で面会交流権を尊重し、面会交流を「おまけ」のように考えないことが大切です。裁判所を介しない面会交流の場合、月1回、宿泊を伴う面会交流をしているケースも多いと聴きます。また、家が近い場合は、幼児の間は面会は自由としている家もあると聴きます。あまり、裁判所基準にとらわれず、宿泊や平日の日常の非監護親をみることによる気づきもこどもには多いのです。子の最善の福祉を中心に考えてあげてください。