不貞不倫行為②―不貞不倫の弁護士ならヒラソル
不貞行為②
不貞行為の有無についてどのように判断するのかを考えています。
弁護士と法科大学院生の伊串くんとのパースペクティブ
院生 :基本的には性交渉に至らなければ不法行為にならないというのが、先生の考えのような気もします。
弁護士:はい。実はそうなんですが、そこは、伊串くんが指摘してくれたように、不貞行為というのは、直接証拠の入手がとても難しいのですね。例えば、探偵が、自宅にふたりで入る写真を撮影してもそこでセックスをしていたかどうかは分からないわけです。特に、事業所でふたりきりという場合、「仕事をしていました」という言い分も通り得るわけです。今井絵理子議員や山尾志桜里議員の不倫の弁明もホテルで仕事をしていました、という弁明ですよね。ただ、裁判官として実際はそうは思っていない場合、つまり裁判官の心証として不貞はあるけれども、法と証拠に基づく限り、不貞行為の認定は無理というケースがあるのです。そういう場合に性交渉に近い行為がされたとか、準不貞行為みたいな概念を持ち込むものもありますね。
ある弁護士は批判として、最判昭和54年も最判平成8年も、いずれも肉体関係、つまり不貞行為を前提としているでしょう、だからこれをキスや抱擁にまで拡げるのはおかしいし、不貞行為の可能性で足りるとするのはその外延が明らかではない、というものがありますね。もっとも、実際は、不貞行為の心証があるけれども、証拠がない、という場合に、無理をして賠償をするのですが低額にとどまったり、あるいは、控訴審で破棄されたりするケースがほとんどではないかと思います。
院生 :でも、蓋然性さえあればいいとか、可能性があればいいとかだと、反ソドミー法の問題点と一緒でプライバシーのみならず冤罪的な恐れまで出てきてしまいますよね。可能性さえあればいいのですから。
弁護士:難しくて全部は判決文を入手できないので、一部だと重婚状態に近いとか、普通なら不貞の認定をしてもいいだろう事例でも慎重な裁判官であったり賠償額を減らしたりする配慮から、蓋然性というものを使っているのかもしれないですね。
院生 :基本的に不貞って証拠がすべてという感じがしますよね。基本的には、自白があったり、携帯のメール、探偵の報告書の存在があったりするなどが考えられますね。
弁護士:基本的には、配偶者の自白がきっかけになっていることが多いのです。不貞行為を認める配偶者の陳述ですね。
院生 :これがあれば証拠として十分なのでしょうか。
弁護士:ところが、配偶者の陳述や証言だけでは、認定に及ばないケースが約半数なのです。
院生 :どうしてですか。
弁護士:基本的には、配偶者には虚偽供述の利益があるのです。その場を収めないといけないので積極的に誇張しているケースや離婚手続きを早く進める場合などがありました。以前のケースで、障碍者の不貞だったのですが、私は相手側の代理人だったのですが障碍者ゆえ、介助者である夫が必要であるため必死に述べているケースがありましたが、修復したい場合は特に誇張が入っていることが多いですね。
不貞の場合、立場が弱いと責められると拒絶ができないということで不貞行為を認めるケースもあり、後に強迫で取り消されるケースもあります。あと利益衡量的に、美人局類似のものになってくるという問題性もあると思います。
ですから不貞行為をした陳述には、基本的には裏付け証拠が必要になってきます。
院生 :個人的に、事実認定がラクだなと思うのがラインやメールが提出されるケースで性交渉を直截に語り合っている例なのですよね。
弁護士:ただ、本当に直截でないといけません。不貞行為が直截的だとその有無が争点になることは少ないので微妙な表現のものが多いということになります。例えば、英文の会話メールの場合、文脈に突然、アナルセックスを連想させる文言が登場したとしても、それだけでは、不貞行為の認定はできない、とされていますね。
院生 :探偵は、利用する当否は別として、有力な証拠ですよね。
弁護士:そうですね。探偵は悪徳も多いです。よくあるのが、長期の調査をして、デートしている写真などしか撮影できず、肝心のラブホテルに入る写真や自宅に一緒に入る写真がないというものですね。
院生 :どうして探偵さんなのに、そうなるんですか。
弁護士:探偵は浮気調査ばかりではないので、例えば婚姻相手の素行調査もあるんですよ。そこで、別の男性とデートしていましたよ、こんなに証拠がありますよ、とか、日常をどのように生活しているのか調査する仕事もあるんです。そして、女性向けの探偵などはカウンセリングを売りにして、気持ちは分かってくれるけど、調査はテキトウ、というものも多いですね。
院生 :何のための探偵か分かりませんね。
弁護士:正直、そういうカウンセリング系探偵の資料を持ち込まれて、ポイントを突いていない場合、弁護士の責任とかいわれかねないので、あそこの探偵は、探偵の腕は大したことない、カウンセリングはしっかりやって満足される方が多いんですけどね、裁判ではあまり使えないものが多いというようにしています。
院生 :どのような写真が重要なのでしょうか。
弁護士:やはりひとつ屋根の下で一晩過ごしたことが把握できているか否かでしょうね。
もっとも、自宅は微妙なんです。
院生 :自宅ですか。
弁護士:単身赴任先とか相手方の自宅ですね。
院生 :ラブホテルではないからですか。
弁護士:そうですね。そういう意味では高級なシティホテルのシングルの部屋の場合も動静が把握されていない限り微妙だと思います。
院生 :ポイントは日常生活やビジネスユースということですね。
弁護士:そうです。例えば東急ステイやニューヨークヒルトンなどは部屋のカードキーがないとエレベーターが動かないので、ビジネスユースで不貞は推認できないですよね。
エクゼクティブフロアなどにはコンシェルジュがいるのでシングルに他人を招き入れるのは、現実的にもビジネス目的以外は難しいかなとも思います。
院生 :その点、ラブホテルは目的が明確ですからね。
弁護士:日常生活を送る場所であったり、宿泊をしていない場合はビジネス目的であったりするということも可能です。ですから、直ちに性的関係を持っていたとはいえないとなりますね。