審判前の保全処分について保全の必要性が認められた事例

京都家裁平成29年2月17日 第1 申立て    主文第1項と同旨 第2 事案の概要    本件は,別居中の夫婦のうち,妻である申立人が,未成年者と同居中の夫に対し,未成年者を連れ去ったとして,未成年者を申立人に対して仮に引渡すことを求める事案である。 第3 当裁判所の判断  1 本件記録によれば,次の事実が認められる。   (1) 申立人(昭和59年○月○○日生)と相手方(昭和57年○月○○日生)は,平成21年7月25日婚姻の届出をし,同年○○月○○日未成年者が出生した。   (2) 申立人,相手方及び未成年者は,申立人の肩書住所地(平成22年5月14日に購入したマンションであり,相手方が住宅ローンの支払をしている。)で同居生活をしていたが,申立人の不貞行為が判明したことから夫婦仲が悪化し,平成28年9月30日,相手方が未成年者を連れて自宅を出て別居するに至っている。   (3) 申立人は,婚姻当時は,いわゆる専業主婦であり,未成年者の出生後,全面的に未成年者の監護養育に当たってきた。申立人は,未成年者が幼稚園に入園した後の平成25年11月以降飲食店のランチタイムのホールスタッフとして勤務するようになったが,パートタイム従業員であり,勤務時間は平日の午前10時30分から午後3時30分ころまでであり,未成年者の幼稚園や学校の行事等のために休みを取ることもできたため,引き続き幼稚園の送り迎えや弁当作りをはじめとし,ほぼ全面的に未成年者の監護養育に当たってきた。     なお,申立人は,相手方との別居後,未成年者を引き取ることを考え,未成年者の監護養育に支障のないよう勤務時間を午前10時から午後2時30分までに変更している。もっとも,申立人は,将来的には,正社員として稼働して収入を確保し,実母と同居して,その援助を受けながち,未成年者の監護養育をしていくことを考えている。   (4) 相手方は,祇園で飲食店を経営している(元々相手方の実母が開業し,経営していた。)ところ,その営業時間が午後6時から翌午前3時であることから,申立人との同居当時,午後5時半ころ出勤し,翌午前4時から5時ころまで勤務して自宅に戻って眠るというほぼ昼夜逆転の生活をしていたため,未成年者の監護養育に当たることはあまりなかったが,休日である日曜日及び祝日に家族で出かけたり,可能な範囲で保育園の行事に参加したり,宿題を見てやったりということはあった。   (5) 相手方は,申立人との別居後,未成年者とともに相手方の実姉であるA(以下「A」という。)の自宅に居住している。Aは,夫と離婚後,一戸建てのいわゆる4DKの自宅に10歳の長女,6歳の長男及び4歳の二男と同居しており,交際中の男性が訪れて宿泊することがある。   (6) 相手方は,別居後,経営する飲食店において,ランチ営業を始め,昼間の営業を相手方が行い(忙しいときは,Aが手伝いに来る。),夜の営業は64歳になる相手方の母とアルバイト従業員が行うことにより,未成年者と過ごす時間を増やし,小学校(申立人宅の近く)まで未成年者の送り迎えをしたり,学校の宿題を見てやるなど従前と比較して監護養育に当たるようになってはいるが,Aや実母の援助を受けている状況である。   (7) 未成年者は,申立人と相手方との別居後,A宅で生活するようになったが,特に心身の健康状態に問題は生じておらず,Aの子供たちとも仲良く過ごしている。   (8) 相手方は,未成年者の希望に応じて,申立人との別居後も,毎週2回,未成年者とともに申立人宅を訪れてピアノの練習をさせるなどして,申立人と交流する機会をもうけている。また,平成29年1月4日から5日かけて別居後,申立人宅における初めての宿泊付きの面会交流が実施され,その後も継続されている。   (9) 当庁における試行的面会交流,未成年者に対する調査官調査及び当事者間で任意に実施されている面会交流の状況から,未成年者は申立人及び相手方の双方を慕っていることがうかがえる。  2 判断   (1) 前記1によれば,未成年者は,出生から父母の別居に至るまでの約7年間,一貫して母である申立人により監護養育されてきており,母である申立人が主たる監護者であることは明らかである。申立人と未成年者との試行的面会交流や任意に実施されてきた面会交流の際の様子からも,これまでに母子間の情緒的交流が十分に図られ,深い精神的結びつきが形成されてきていることが認められる。     また,同居期間中から現在に至るまで,心身とも未成年者の健康状態に問題はなく,健全に成長してきている。     申立人は,未成年者を引き取ることを考え,当面勤務時間を未成年者の生活状況に合わせるようにし,将来的には正社員になって収入を安定させることやこれまで未成年者とも交流のある実母と同居して未成年者の監護養育の援助を受けようとするなど,未成年者の監護養育について,強い意欲も示している。   (2) 他方,相手方は,申立人と同居期間中は未成年者の監護養育にあまり関与してこなかったものの,就労時間を変更して未成年者の監護養育に当たる時間を増やすなど監護養育に意欲的であるだけでなく,母子の交流を認め,これを実施するなど,子の福祉に配慮して監護養育に当たっているといえる。また,相手方は,未成年者の監護養育に関してAの援助を受けているところ,未成年者はAの子らとも仲良く過ごしており,健康状態に問題もなく生活することができている。   (3) 申立人と相手方との別居の前後を問わず,未成年者の心身の状況に特段の問題はなく,順調に成育していることや未成年者が父母をともに慕っていることからすれば,別居後の監護養育状況が,子の福祉の観点から,不適切であるということまではできない。     しかし,未成年者が出生から現在までほとんどの時間を申立人によって監護養育されてきており,その間に形成された母子間の精神的・情緒的結びつきは深いものであるところ,子の成長にとってはこうした安定的かつ強固な関係がなによりも重要であり,こうした関係が断ち切られることは,子の成長に看過し難い影響を及ぼすことになるというべきである。     また,相手方の就労状況について,相手方の経営する飲食店の営業形態からすれば,夜間の営業が主であることがうかがえるところ,慣れているとはいえ,息子に経営を委ねた64歳の相手方の実母が夜間の営業を担い続けるとは考え難く,一時的なものである可能性も否定できない。Aの援助にしても,Aには交際中の男性もおり,将来的に男性と3人の子らとの家族での生活が中心となって,現状のような援助を継続することが困難となる可能性も否定できない。いずれにしろ,相手方の監護養育下における未成年者の現在の状況について,安定的かつ継続的なものとみることは困難である。     このような事情に加え,未成年者の年齢等も考慮すれば,本件においては,未成年者の監護者を母である申立人と定めるのが相当である。   (4) ところで,相手方は,申立人の不貞行為,これに伴い申立人が未成年者の監護養育を十分にしなかったことを理由に申立人は監護者として不適切である旨主張する。     申立人に不貞行為があったことは争いのないところであるが,そのために未成年者の監護養育が不十分になったかどうかについて,申立人はこれを否定し,相手方の主張も推測に基づくものであることから判然としないところである。しかし,未成年者の心身の成育に問題のないことや母子関係が良好であること,申立人も不貞行為について真摯に反省していることからすると,申立人の不貞行為が未成年者の成育に悪影響を及ぼしたということはできないし,今後の監護養育に支障があるともいえず,直ちに,申立人が監護者として不適切であるということはできない。     なお,相手方は,申立人が相手方に無断で借入をしたことも問題にするが,申立人の浪費に起因するものと直ちに認めることは困難であり,同事実をもって,監護者として不適切であるということはできない。   (5) 以上のとおり,未成年者の監護養育は,申立人と相手方の同居中と同様に申立人が当たるのが望ましいところ,相手方が未成年者を連れ出してから既に4か月以上が経過しており,相手方の監護養育状況が直ちに不適切であるとはいえないにしても,わずか7歳の未成年者にとって,主たる監護者から引き離される状況がこれ以上継続することは,過度の精神的負担を強いることになるのであって,子の福祉の観点から容認できないものである。     したがって,保全の必要性が認められる。  3 よって,本件申立ては理由があるから,主文のとおり審判する。

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