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歯科医が勤務先を退職して収入が減額認定されたが、婚費の分担額の変更は認められない事例

 歯科医をしている先生もいろいろあると思います。本件では、歯科医は人事の都合で病院を辞めざるを得なくなりました。そして、手取りは月18万円に減少してしまいました。では、なぜ婚費の減額が認められなかったのでしょうか。大阪高裁平成22年3月3日。歯科医の先生は、名古屋駅ヒラソル法律事務所にご相談ください。

Step1.問題の所在

 婚姻費用分担につき、調停が成立している場合、どのような事情を考慮できるかが問題となるが、本件では、「合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など、分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である」と厳格に解している。

 また、変更審判をする要件としては、「分担額の変更をやむを得ない」と考えられることが示されているように読める。

Step2.本決定の位置づけ

 本決定では、婚姻費用分担調停で合意された分担額の減額請求を認め得る要件として、「合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合、分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要」と非常に厳格に判断している。

 もっとも、「裁判所の判断」として示されている内容をみると、考慮できる事情を必ずしも限定しているわけではないようである。むしろ、婚姻費用を負担する能力があるにもかかわらず、自らの意思で低い収入に甘んじていることが、生活保持義務に反しているから、変更は認められないとしている。

 しかし、実体法上、義務に反する事実の変更がなされているため、変更の必要性も相当性も欠くと判断しているのと、異ならないのではないかと思われる。

 この事例は、表現上は、契約における事情変更の原則と同様に厳格な要件のもとでしか、事情変更が認められないと、考慮できる事情をも非常に限定的に判断しているように認められます。しかし、実際上は、変更の必要性と相当性を検討している事例として、位置付けているように思われている。

Step3.大阪高裁平成22年3月3日

第2 当裁判所の判断
 1 本件及び前件調停事件の各記録によれば,次の事実が認められる。
  (1) 抗告人(昭和57年×月×日生)と相手方(昭和55年×月×日生)は,平成18年×月×日に婚姻し,平成19年×月×日に長女が出生した。
  (2) 抗告人と相手方は,長女が出生したころから夫婦喧嘩が絶えなくなり,相手方の転勤を機に平成20年×月下旬から別居していたところ,相手方において,同年×月×日離婚を求めて調停を申し立て,抗告人において,同月×日,婚姻費用分担金として月額6万円の支払を求める前件調停事件を申し立てた。そして,同年×月×日に前件調停が成立し,相手方は抗告人に対し,婚姻費用の分担金として,同月から双方が別居又は婚姻の解消に至るまで,月額6万円宛を毎月末日限り,抗告人の指定する預金口座に振り込んで支払う(ただし,平成20年×月分は,既に支払済みであることを確認する。),との合意がされた。上記離婚調停は,平成21年×月×日不成立となり,相手方から離婚訴訟が提起され,平成22年×月×日,離婚を認容する判決が言い渡され,同判決は同月×日確定した。
  (3) 相手方は,平成21年×月×日,前件調停により合意した婚姻費用分担金を月額1万円に減額することを求める調停を申し立てたが,同年×月×日,調停は不成立となり,本件審判手続に移行した。
  (4) 相手方は,歯科医であり,平成20年×月×日から平成21年×月×日まで○○病院に勤務し,給与及び賞与として,平成20年中は558万4439円を,平成21年中は191万0090円を支給された。相手方は,平成21年×月×日付けで上記病院を退職し,同年×月×日から大学の研究生として勤務しながら,病院でもアルバイトをしている。相手方は,同年中に大学から給料等として91万6600円を,アルバイト先の病院から給料及び賞与として117万1200円の支払を受けた。
  (5) 抗告人は,平成20年×月×日から○○として勤務するようになり,給料及び賞与として平成20年中に297万8884円の,平成21年中に362万8050円の支払を受けた。
 2 上記事実関係を前提に,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更するのが相当か,変更するのが相当な場合にその額について検討する。
  (1) 調停において合意した婚姻費用の分担額について,その変更を求めるには,それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると,合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など,分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。
    そこで,本件についてこれをみるに,前記認定のとおり,相手方は前件調停が成立してから×か月後に就職先を退職し,大学の研究生として勤務して収入を得る状況となっており,平成21年の収入は合計399万7890円となり,前件調停成立時に比して約3割減少していることを認めることができる。相手方は,退職の理由について,人事の都合でやむを得なかった旨主張するが,実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上,仮に退職がやむを得なかったとしても,その年齢,資格,経験等からみて,同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。そうすると,相手方が大学の研究生として勤務しているのは,自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり,その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。
    したがって,本件においては,相手方の転職による収入の減少は,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更とは認められない。
  (2) 次に,相手方は,抗告人が○○に復職して年360万円の収入があると主張するが,抗告人は前件調停時には既に○○に復職しており,前件調停はこれを前提に合意されたものということができるから,この収入があることをもって,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更は認められない。
第3 結論
   以上によれば,相手方の婚姻費用分担額の減額を求める本件申立ては失当であり,抗告人の本件抗告は理由があるから原審判を取り消して,相手方の本件申立てを却下し,相手方の本件附帯抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。

Step4.事情変更の原則

 (1) 婚姻費用分担額を変更すべき事情の変更について
 婚姻費用の分担義務は,法的婚姻関係が継続する限り,その効果として生じ,具体的な分担額の問題は別として,別居期間の長期化によって分担義務が消滅するものではないと解されており,夫婦の一方が有責配偶者であり,他の配偶者が離婚に応じないなど,長期間を経ても離婚が成立しない場合には,義務者の経済状況の変化などの事情の変更に応じて,調停や審判によって定められた婚姻費用の分担額を減額すべき場合が生じ得る。
 そして,ここにいう事情の変更は,調停や審判の際に考慮され,あるいは基礎とされていた事情が,その後変更となった結果,調停や審判が実情に適さなくなったことと解されており,予見し得た事情がその後現実化したにすぎない場合は,原則として事情の変更があったとみることはできないとされている。
 (2) 妻以外の女性との間の子に対する認知と事情の変更について
 婚姻費用を減額すべき事情の変更に該当する場合は,種々考えられるところであるが,夫が妻以外の女性との間の子を認知している事案では,それが夫婦関係破綻の原因になっている場合も考えられることから,原審のように,これを理由に妻に対する婚姻費用の分担額を減額することが,信義則に反し許されないとの考え方もあり得よう。
 しかし,夫が妻以外の女性との間の子を認知した場合,夫は認知した子に対して扶養義務を負うこととなり(東京家裁昭和44年1月27日審判・家裁月報21巻7号88頁),認知された子への扶養義務を考慮することなく妻に対する婚姻費用の分担額を定めると,結局,認知された子が十分な扶養を受けることができなくなり,その福祉を害する結果になることを勘案すると,本件のように,調停成立後,婚姻費用の分担義務者であるAに,新たに認知した子であるG,I及びJに対する扶養義務が生じた場合は,婚姻費用の分担額を減額すべき事情の変更に該当すると考えるべきであろう。

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