親教育の重要性を説く面会交流の画期的判決・須藤判決

面会交流の頻度ってどれくらい?

面会交流の頻度ってどれくらいって疑問があると思います。

その頻度を月2回・4枠とした判例があります。

この判例は、かつて松江家裁が行った父母が同席して、こどもと面会交流をして、こどもを介して、父母たる地位を自覚させ面会交流の成果を上げた研究を相当に参考にして、さらに調査官関与を外しても父母の同席を求めるなどの親教育を施すめずらしい、理想的かつ急進的な判決といえるでしょう。

母親側の弁護をしていると、「月1回の面会交流のために調整をするため、自分も働いているのに、回数が多すぎる」という声を聴きます。

しかし、面会交流は、究極的には子の最善の利益のために行われるべきであり、そもそも面会交流は監護親の義務であり、その義務を履行できないのであれば、親権自体も変更せざるを得ない場面も出てくるのではないかと考えていました。現実にこの考えに沿った福岡家裁決定が出ましたが、面会交流のための日という意識改革を進める親教育は進んでいないと思います。

とある法曹はこの判決を特殊なものと侮蔑します。しかし、内容の当否はともかく親教育による意識改革が必要で、ショック療法を与えたという点はすごいものだ、と思います。しかしながら、離婚した父母に6~7時間の同席を月1日にせよ、求めるというのはいささか監護親と非監護親との利益衡量を失しているとは思います。しかし、私たちは子の最善の利益を中心に据えた須藤判決がベースラインであり、そこからある程度の妥協をしていくものという発想も大事なのではないかと思います。

本来、ワンウェイミラーによる試行的面会交流で、父子の交流を母親に見せるのも、母親に父子の交流をみてもらい、その重要さを教育する点にありました。しかし、最近は、寛容性を失い、母親は、愛する息子が、憎しみの父親の仲良くしており、悔しさのあまり涙を流しているケースに出会うこともあります。

しかし、このように相手方を排除しようとする姿勢はそもそもが失当といわざるを得ません。須藤判決は、この点をよく突いているといえるでしょう。判決は互いを排除しあう父母について「努力に消極的な当事者については、未成年者を監護する者としての適格性に大きな疑問があると評価されることを覚悟しなけれぱならない」と非難しています。

個人的には、共働きの場合は、土日の午前・午後が1か月で(2+2日)×4週=8枠の譲り合いなのではないかなと思っています。この観点からいうと、概ね相場観は、以下のとおりかもしれません。

 

問題なしの場合:2枠(月1回午前9時~午後6時)

面会交流制限事由あり:1枠(月1回午前10時~13時)

話合いの場合は、3~4枠もあり得るのではないかと思います。

現在、和解を進めているケースでも3枠+長期休暇4~7日で合意ができそうな案件があります。

裁判所では、一般的に紛争性のある案件が多いですから、お互い顔を会わせたくないがこどもとは交流したいという場合は「問題なし」ともいえないし、「面会交流制限事由なし」ともいえないし、第三者機関を介在させて、そのメニューに従うと物理的に1枠というケースもあるように思います。

さて、そんな中で非公開ながら注目を集めている裁判例があります。東京高裁平成25年12月13日です。価値中立的な法律家は、この非公開事例について研究されていると聴き、理論的な分析を進めているとのことのようです。面会交流は最高裁では争えないことがほとんどですから、東京高裁は終審としての意味合いもあります。

しかし、本質的非訟ですから、「東京高裁もいろいろ」で片づけられることもありますが、部総括判事の須藤氏はフランス人の有責配偶者事案で短期で離婚を認容した判例を担当したことがあり、著名ではあります。しかし裁判所内での評価までは分かりませんが、法律家が気にする判例ではあります。

裁判所が、4枠も認めるのはおそらく前例がないからです。原審のさいたま家裁はほぼ1枠ですので、いきなり4枠にするというのは、かなりのショック療法のような決定といえるでしょう。

この須藤決定はどのような決定なのでしょうか。

・1枠を4枠に増やした

・5歳のこどもに家庭裁判所調査官が意向調査をしている(普通は10歳くらいから)

・第2、第4日曜日に固定し、予備日と再予備日を指定している

・こどもを連れて実家に帰ることには責任が伴うとし不当性には面会交流の負担が伴うと指摘している

・父子関係に配慮しない場合は母は監護親としての適格性に欠けると明快に指摘している

・5歳で6~7時間の面会交流は反対派からは長いと感じ取られること

・本来であれば、面会交流の際には、父方祖母と父方叔母ではなくと指摘し、祖父母の面会交流権を当然の前提としているように読めること

・父母同席という共同面会交流を推奨していること

・受渡しに際して父は急進的に権利を主張するのではなく母への寛容性を求めていること

・以下のとおり共同面接を求めている。「抗告人と相手方との間において、お互いに相手を排除しようとする感情的対立が激しい本件において、どのような態様や方法で面会交流を実施するのかベストかを論ずることは困難であるが、何もしなけれぱ未成年者の監護をめぐる当事者間の感情的対立を緩和することは不可能であり、未成年者は成長と共にますます精神的に追い込まれて、無関心を装う他はなくなり、抗告人との関係だけではなく、相手方との関係も不自然なものになってしまう可能性が高いのではないかと危惧される。そのようなことを少しでも軽減するため、当裁判所は、抗告人にも相手方にも、未成年者のために我慢し、努力して、面会交流の際に抗告人と相手方とが未成年者と一緒に同席して、共通の時間を過ごすことにより,抗告人と相手方との間で面会交流における一定の信頼関係が築かれることを期待する。」

・須藤判決は、おそらく外国文献にそれなりの肯定的な評価を否定的な文脈とはいえ言及した点で注目されます。「なるほど、平成12年ないし平成13年頃に発表されたロバート・ハウザーマンの「共同監護と単独監護における子供の適法性の比較メタ分析報告」によれば、実質上(子供がかなりの時間あるいはほぼ同等の時間をそれぞれの親と過ごす場合)・法律上(片親が主に同居監護する場合で、他方の親も子供の教育への関わりを維持し、子供に関する事項決定は双方の親で行う場合)の共同監護下にある子供の適応状況を単独監護下にある子供のそれと比較する諸研究メタ分析を行った結果、実質上あるいは法律上の共同監護を受ける子供は、単独監護下の子供よりも適応性があったが、両親のある子供との間には差異はみられなかった、総合的適応、家族関係、自尊心、心理、行動、離婚等の各項目を比較すると、共同監護下の子供の方がよりよい適応性を示した」

平成25年(ラ)第1733号 面会交流審判に対する抗告事件。

主文

1 原審判主文第2項の(1)及び(2)を次のとおり変更する。
「(1) 面会交流の回数を月2回とし、毎月第2、第4日曜日とする。
第2日曜日に面会交流を行えなかった場合には、第3土曜日又は第3日曜日に振り替える。
第4日曜日に面会交流を行えなかった場合には、翌月の第1土曜日又は第1日曜日に振り替える。
相手方は、このうち1回は抗告人と未成年者との面会交流に同席することができる。

(2)面会交流の時間は、
毎年5月から8月までの間は午前10時から午後5時まで、
毎年9月から4月までの間は午前10時から午後4時まで、
とする。」

2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1 抗告の趣旨及び理由。
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告状」、「抗告理由書」及び「準備書面8」(いずれも写し)記載のとおりであり、
相手方の反論は準備書面(写し)記載のとおりである。

第2 事案の概要。
本件は,
平成19年○月○日に婚姻し,
平成20年○月○日に長女(未成年者)が出生した後、
平成21年○月○日に妻(相手方)が未成年者を連れて実家に帰って別居し、
現在、当事者間に離婚訴訟が係属中である夫婦の夫(抗告人)が、
本件に先立ち
平成23年○月○日に東京家庭裁判所がした
抗告人と未成年者との面会交流を
1か月に1回、4時間とした上、
抗告人に未成年者の保育園等の行事の参観を認めること
等を内容とする審判(以下「先行審判」という。)
について、平成24年6月13日に最高裁判所で特別抗告が棄却されたことを知った直後の同月22日に、未成年者との面会交流の機会を増やし、段階的に宿泊を含めた面会交流等を認めるよう求めて再度の調停を(さいたま家庭裁判所に)申し立て、審判に移行した事案である。

 原審は、相手方の立会なしでの抗告人と未成年者との面会交流を2回試行した後、
先行審判の面会交流時間を変更して、相手方に対し、抗告人が月1回、毎月第2日曜日の午前10時から午後3時までの5時間、未成年者と面会交流することを認め、
第2日曜日に支障がある場合には、第3日曜日、第4日曜日に順次面会交流日を振り替えること、未成年者のサトーココノカド―広場とすべきことを命じた。
 これに対し、抗告人は、
①月1回、日曜日に5時間に限って面会交流を認める基準が不透明であり、面会交流時間が少なすぎて不当であること、
②宿泊を伴う面会交流を否定する合理的な理由がないこと、
③長期的、段階的な面会交流に関する見通しを定めることが抗告人と相手方との紛争性を低減させることになり相当であること、
④別件離婚訴訟における調査報告書によれば、未成年者が抗告人との面会交流の拡充を求める趣旨の発言をしていることを配慮すべきである
などとして、本件抗告を申し立てたものである。
第3 当裁判所の判断。 `
1 当裁判所は、
上記第2の④の点や
未成年者がこの9月で5歳になったこと、
原審における面会交流の試行の様子や
これまでの経過
等のほか、長期的にみて未成年者の今後の健全な発育のために抗告人と未成年者との面会交流の機会をなるべく早く拡充する必要があること
を考慮して、
面会回数は月2回とし、
面会交流時間は、
毎年5月から8月までは午前10時から午後5時までの7時間、
毎年9月から4月までは午前10時から午後4時までの6時間
とするのが相当であるから、
その限度で原審判を変更すべきものと判断する。

2 本件の一件記録等により認められる事実は、
原審判3頁22行目の「相手方は」を「抗告人は」と改めるほか、
原審判の「理由」第2の1に説示されたとおりであるからこれを引用する
(ただし、「申立人」を「抗告人」と、「当庁」を「さいたま家庭裁判所」と読み替える。)。

3 先行審判後の状況の変化等により、
抗告人と未成年者との面会交流の在り方を変更することが相当か否かについて検討する。

1)面会交流の回数、日時、場所、未成年者の受け渡し方法等について。

ア 面会交流の回数。
別件離婚訴訟において平成25年7月に実施された調査官と未成年者等との面接調査に関する報告書によると、
未成年者は、抗告人について
「こどもの城で会ってる。パパ、面白いんだよ、面白いこと言うんだよ。もっとパパと会いたい。」
と話し、抗告人と会うことは楽しいと快活に答えるなどしていることが認められ、未成年者は、愛着の対象である相手方から離れて自己主張ができる年齢となり、自分に精一杯の愛情を注いでくれる抗告人に対して、一緒に楽しい時間を共有したいという思いが相当程度あることが窺われる。
その一方で、上記報告書によると、相手方は、保育所の運動会の際、抗告人に声をかけられた未成年者が相手方の様子を気にしていたことがあり、未成年者が抗告人と相手方との間で気を遣っている様子があるので、幾分心配していると述べていること、未成年者は、調査官との単独面接の際、抗告人ともっと会いたいと言いながら、相手方が抗告人のことを嫌いなので、相手方が嫌がるかもしれないとやや心配そうな表情を見せていたことも認められるのであって、5歳とはいえ、未成年者において、面会交流等の場面で父母が不仲であることを感じ取り、相手方の顔色を窺い、相手方の抗告人に対する拒否感を負担に思う気持ちや父母の前で自分がどのように行動したらよいのか迷って、精神的なストレスを受けていることが窺われる。
 もっとも、先行審判がなされた後、抗告人はこれを不服として、高裁、最高裁へと争ってはいるものの、その間も、抗告人と未成年者との面会交流は行われており、特段の大きなトラブルは生じていないようであるが、そのためのファックス等によるやりとりは簡単なものではなく、お互いに相手の対応に不満や不信を抱いている様子をみてとることができる。
ただ、抗告人と未成年者との面会交流も回数を重ねることによって一応のルールらしきものはできつつあり、上記のとおり、5歳を迎えた未成年者が抗告人との面会交流の機会を求めていることでもあるので、
抗告人と未成年者との父子関係を維持、発展させていくためには、現状を踏まえつつもなるべく抗告人と未成年者との面会交流の機会を増やしていくことが適切であると考えられるから、当事者双方が以下の条件を守ることを前提として、
面会交流の回数は
月2回(そのうち1回は相手方も同席することができる。)
とするのが相当である。

イ 面会交流の実施日。
 また、面会交流の実施日は、これまで、未成年者が土曜日に習い事をしていることや
友人と遊ぶことが多いことを考慮して、概ね第2日曜日に行われていたことを勘案し、原則として毎月第2及び第4日曜日とする。
仮に、未成年者の体調等により、第2日曜日に行うことができなかった場合には、
第3土曜日又は第3日曜日とし、第4日曜日に行うことができなかった場合には、
翌月の第1土曜日又は第1日曜日とする。
もちろん、このような月2回の面会交流を実施することは、相手方にとっては相当の負担となる可能性を否定できないところではあるが、それは、相手方が未成年者を実家に連れ帰ったことにそもそもの原因があって、相手方には、父親としての抗告人の権利にも十分に配慮すべき義務があるから、これを受け入れて実現するよう最大限の努力をすべきである。
仮に、相手方においてそのような負担には耐えられないというのであれば、
未成年者と抗告人との父子関係に対する配慮に欠けるか、若しくはそのような配慮をするための態勢に欠けることを示すものであるから、いずれにしても未成年者の監護者としての適格性に疑問が生ずることを自覚すべきである。

ウ 面会交流の時間。
 面会交流の時間については、先行の審判では月1回で4時間とされているが、
未成年者が5歳となり、先行審判のときよりは体力がついてきているものと考えられること、
昼が長い時期にはそれなりの活動もできるよう配慮するのが相当と考えられること、また、
面会交流を充実させ、抗告人と未成年者との父子関係を発展させるためには、
未成年者の受け渡しを受けた後、その場所から移動して、これまでとは異なる場所で、
異なる経験をすることも大切であり、そのためには相応の時間も必要であること等をも考慮して、
毎年5月から8月までの間は午前10時から午後5時までの7時間、
毎年9月から4月までの間は午前10時から午後4時までの6時間、
とするのが相当である。

エ 未成年者の受け渡し場所等。
 未成年者の受け渡し場所は、原則として、これまでのとおり、○○○○広場とするが、
未成年者が既に5歳を迎え、
これからますます成長していくことを考慮すると、
父子関係の発展のためには、父と子でこれまでとは異なる体験をする機会を持つことも大切であるから、
上記の面会交流の時間内に受け渡し場所に帰ってくることを条件として、抗告人は、未成年者の受け渡しを受けた後、未成年者と共に他の場所に移動して面会交流を実施してもよいこととする。
相手方は、そのような機会に抗告人が未成年者を連れ去るのではないかと危惧しているようであるが、仮に、抗告人においてそのような行動に出た場合には、裁判所での決定を無視したこととなり、刑事罰の対象となる可能性があるばかりでなく、当分の間は面会交流を中止するなどの制裁を受けることになるはずである。
もちろん、抗告人においても未成年者と会えなくなるようなことは望んでいないはずであるから、相手方は、過剰な心配をして、そのような態度が未成年者に不安を生じさせることがないよう、十分に留意すべきである。

(2) 相手方の同席について。
ア 未成年者の身体的監護に必要であるか否か。
原審裁判所で実施された試行的面会の際に観察された未成年者の態度や様子などからすれば、未成年者は、面会交流の際に相手方がその場を離れても不安や混乱を感じることなく過ごすことができ、抗告人から提案されたものでも嫌なことは嫌と言える様子が観察されている上、その後になされた○○広場での面会交流の様子を撮影した写真等によっても、抗告人と未成年者との面会交流の際に、未成年者の監護のために相手方が同席しなければならない必要性はほとんどないものと認められる。
 もっとも、現状では、未成年者は、面会交流時に1人で外部施設のトイレを利用することには躊躇している様子であり、抗告人は自分が連れて行くことを希望しているが、父親とはいえ、5歳の女児を男性トイレに連れて行くのは、他の男性利用者がいる場合に誤解を受けたり、未成年者を困惑させることになって好ましいものではないから、女性の立会が必要である。
現在は、面会交流時に父方祖母と父方叔母とが同席して、未成年者のトイレに対応しているが、後にも触れるとおり、未成年者は、本来は、父親である抗告人と母親である相手方とが揃った席で安心して楽しく時間を過ごしたいのであるから、本来であれば、面会交流の際には、父方祖母と父方叔母ではなく、母親である相手方が同席できれば、それが未成年者にとって最もよいことは明らかである。

イ 未成年者の精神的安定に必要であるか否か。
 また、抗告人は、面会交流の際に相手方が未成年者の視界に入ると未成年者が気にするので、相手方は未成年者から見えない所にいるよう求めているところ、このような主張は、一時的に未成年者を母親である相手方と切り離して、自分が独占したいとの気持ちによるものであり、これまでの経過を考えると、抗告人がそのような思いを抱くこともわからないではないが、未成年者は、本来は、父親と母親がいつでも視界に入るところにいることで精神的な安心感を得るものである。
しかも、上記認定のとおり、5歳とはいえ、未成年者は未成年者なりに父母の不仲に戸惑い、どのように行動すべきかを悩んでいる様子もうかがえるのであって、未成年者が安心して抗告人と一緒に遊んだりするためには、父母の不仲が自分には直接の影響がないことを感じることが必要であり、抗告人との面会交流の際に相手方がいつでも見えるところにいることが、未成年者に安心感を抱かせる最良の方法であることは明らかであるから、
抗告人が求めているところは、むしろ逆の結果を招いているというべきである。
もっとも、このことは、相手方においても同様であり、相手方が日頃、意識的もしくは無意識的に未成年者から抗告人を切り離そうとしているからこそ、未成年者は抗告人との面会交流に緊張し、その終了時に相手方が現れると表情を硬くしたり、反応が淡泊になったりするのであろうと考えられる。
抗告人も相手方も、お互いに未成年者を独占するために相手を排除しようとしていることが、未成年者に精神的緊張やストレスを生じさせていることを忘れてはならない。
 抗告人は、未成年者との面会交流の拡充を望んでいるが、実際問題として、未成年者を面会交流の場に連れてくるのは相手方であり、また、面会交流が終わった後に未成年者を労るのも相手方なのであって、面会交流の拡充には相手方の協力が必要不可欠であることを自覚して、面会交流を拡充し円滑なものとするためには、相手方を排除しようとするのではなく、未成年者の母親としての相手方を、未成年者のために受け入れる覚悟を持つことが必要である。
抗告人は、後に検討するとおり、外国での調査等に基づく文献等を引用していろいろ主張しているが、外国調査の内容は、いずれも婚姻関係にあった男女において、夫であり、妻であるという夫婦としての関係は終わっても、父親であり、母親であるという、子供の両親としての関係は断ち切らずに、お互いが維持することを前提としているものである。
この点で、抗告人の主張は、自分が相手方によって未成年者との関係を断ち切られているとの強い被害者意識が前提となって、面会交流の際はできるだけ相手方を排除しようとしており、結局はお互いにお互いを排除することの繰り返しとなっており、これを繰り返すことによって、ますますお互いの対立が激化することになり、結局は未成年者を苦しめる結果になっていることに気づくべきである。

ウ 月に1回は未成年者と一緒に抗告人と相手方とが同席する機会を持つべきこと。
 このように、抗告人と相手方との間において、お互いに相手を排除しようとする感情的対立が激しい本件において、どのような態様や方法で面会交流を実施するのかベストかを論ずることは困難であるが、何もしなけれぱ未成年者の監護をめぐる当事者間の感情的対立を緩和することは不可能であり、未成年者は成長と共にますます精神的に追い込まれて、無関心を装う他はなくなり、抗告人との関係だけではなく、相手方との関係も不自然なものになってしまう可能性が高いのではないかと危惧される。
そのようなことを少しでも軽減するため、当裁判所は、抗告人にも相手方にも、未成年者のために我慢し、努力して、面会交流の際に抗告人と相手方とが未成年者と一緒に同席して、共通の時間を過ごすことにより,抗告人と相手方との間で面会交流における一定の信頼関係が築かれることを期待するものである。
そして、その方法として、当裁判所は、双方に異論があることは承知の上で、当面は月2回の面会交流とし、そのうち1回は相手方も同席して、抗告人も相手方も、お互いに未成年者を独占しようとするのではなく、未成年者が必要とするときに、父親又は母親としてその必要な手助けをするという姿勢で一緒の時間を共有し、そうすることによって、お互いに、夫や妻という立場で対立するのではなく、未成年者の父親又は母親という立場ではお互いを認め合うよう努力し、未成年者に平和で安心を感じる時間を与えてくれることを期待するものである。
もちろん、当初は多くの困難を感じるのではないかと思われるし、よそよそしいものになるかもしれないが、それは回を重ねて小さな信頼関係を積み上げていくことによって克服されるものであり、抗告人も相手方も、未成年者の健全な成長と福祉を本当に願うのであれば、必ずや克服できるものである。
仮に、そのような努力をすることすら困難だというのであれば、その努力に消極的な当事者については、未成年者を監護する者としての適格性に大きな疑問があると評価されることを覚悟しなけれぱならないであろう。

(3)段階的な面会交流の増加や宿泊を伴う面会交流について。
ア 段階的な面会交流の増加。
 抗告人は、長期的、段階的に面会交流の機会を増加させる審判をすることによって、
抗告人と相手方との面会交流に関する紛争性を低減させることができると主張している。
しかし、未成年者はまだ5歳に達したばかりであり、これから精神的、肉体的に大きく成長していく過程にあって、将来の生育の度合いやその態様、今後の未成年者を取り巻く環境の変化等を現時点で予測することが困難であるだけではなく、抗告人と相手方との間において、現在もなお、お互いに激しい対立感情を残したままであって、具体的にその対立が近い将来に軽減されたり、解消される見込もないのに、ただ審判によって一方的に細かく期間を区切って面会交流の頻度や態様を決定することは、抗告人と未成年者との面会交流の機会を硬直化させ、かえって未成年者に精神的ストレスを与えて、その成長に沿わない事態を生じ、未成年者の福祉に反する結果になってしまうおそれが高いというべきである。
 そして、そもそも抗告人と相手方との問で面会交流に関する紛争性が高いのは、これまでに述べたところからも明らかなように、相手方は抗告人に対する強い被害者感情があって、できるだけ抗告人を未成年者に近づけないようにしたい、未成年者から抗告人を切り離したいとの気持ちがあるからであり、他方、抗告人においては、相手方によって未成年者との関係を断ち切られているとの強い被害者意識があるため、せめて面会交流のときだけでも相手方を排除して、未成年者を独占したいとの思いが強いことによるものであると考えられるから、お互いのそのような意識を改めない限り、ますますお互いに相手を排除しようとして対立が激化することとなって、結局は、面会交流のたびに未成年者に精神的ストレスを与えてしまい、この事態が改善されなければ、未成年者の健全な精神的な発達をも阻害することにもなりかねないものである。
 このように、未成年者の健全な成長のために、今、双方がなすべきことは、抗告人の主張するような形で面会交流の機会を形式的に増やすことではなく、まずは面会交流の機会に未成年者をはさんで抗告人と相手方とが一緒にその成長を見守る態勢を整えることである。
抗告人と相手方は、そのためにお互いに我慢し、そうすることで次第に未成年者の父親又は母親としてのお互いを認めて、その限りで、同席しても何事もなかったかのように振る舞うことができるようになることが求められていることを理解すべきである。
そのような思いを込めて、当裁判所は、抗告人の未成年者との面会交流を月2回とし、そのうち1回は相手方の同席を認めるものとすることを定めるものである。

イ 宿泊を伴う面会交流について。
 宿泊を伴う面会交流の実施についても、
それを可能とするための前提条件は上記のところと同じであり、抗告人と相手方とが、お互いにお互いを未成年者の父親又は母親として認め、その限りで、同席しても何事もなかったかのように振る舞うことができるようになったならぱ、未成年者においても、精神的なストレスを感じることなく、宿泊を伴う面会交流を実施することができるようになるであろう。
そして、そのような環境が整うまでは、抗告人の気持ちは理解できないわけではないが、
未成年者の福祉の観点から相当ではないといわざるを得ないものであるから、抗告人のそのような主張を採用することはできない。
ウ 外国の文献等について。
 ちなみに、抗告人は、LBP(子を連れ去られた親)の立場にあり、原審が定める面会交流の頻度や態様では父子の構築は進まず、米国等で実施された研究によれば子どもに悪影響を及ぼすとし,未成年者にはPAS(片親阻害症候群)の兆候が見られると主張している。
 なるほど、平成12年ないし平成13年頃に発表されたロバート・ハウザーマンの「共同監護と単独監護における子供の適法性の比較メタ分析報告」によれば、実質上(子供がかなりの時間あるいはほぼ同等の時間をそれぞれの親と過ごす場合)・法律上(片親が主に同居監護する場合で、他方の親も子供の教育への関わりを維持し、子供に関する事項決定は双方の親で行う場合)の共同監護下にある子供の適応状況を単独監護下にある子供のそれと比較する諸研究メタ分析を行った結果、実質上あるいは法律上の共同監護を受ける子供は、単独監護下の子供よりも適応性があったが、両親のある子供との間には差異はみられなかった、総合的適応、家族関係、自尊心、心理、行動、離婚等の各項目を比較すると、共同監護下の子供の方がよりよい適応性を示したとしている。
その一方で、同報告では、合衆国ではほとんどの州で1990年(平成2年)初期までに共同監護がオプションとされる制度が採用されていること、上記研究報告の前提として研究対象の選出に偏向がある可能性を否定できないこと、共同監護方式を選んだ両親は、離婚前あるいは離婚当時から良好な関係を維持できていた元夫婦であるところ、共同監護家庭の両親の対立度が単独監護家庭のそれよりも低いことから、両親の離婚前、離婚時の対立度をコントロールすることが今後の研究の課題であろうとされている。
 これに対して、わが国では、離婚時の子供の親権者については単独親権制度が採用されており,欧米諸国とはそもそも法制度が異なること、また、 欧米諸国では、子供に対する一般的な養育方針ないし親子関係として、早い場合には乳幼児の頃から両親とは寝室を別にするなど、幼少時から子供が親から離れ、親も子供から離れて、子供が早期に自己を確立することを前提として養育がなされるのであって、現在のわが国における子供に対する一般的な養育方針ないし親子関係とは異なっているのが実情であり、上記報告によっても、共同監護方式を採用している元夫婦は、離婚前ないし離婚時から,夫婦間での対立の度合いが低かったとされているのであって、そのような前提を抜きに論じることは相当ではない。
 そして、これまで述べてきた本件における個別事情を考慮すると、上記の外国文献等による研究報告の結果を直ちに当てはめて考えることは相当ではないというべきであるから、
これを採用することはできない。
抗告人及び相手方はいずれも、まず、夫又は妻としてのお互いに対する敵対感情はひとまず措いて、お互いに相手が未成年者の母親であり、父親であることを改めて認識し、未成年者のためにその限度ではお互いを認め合い、そのことを未成年者が肌で感じて、面会交流に対する精神的な安心感を得られるよう努力することが肝要である。
当裁判所は,そのような考えに立ち、上記のとおり、抗告人も相手方も、お互いに未成年者のために我慢し、協力して、2回に1回は相手方も同席した上で抗告人と未成年者との3人での面会交流を実施し、未成年者のための面会交流であることをお互いに再認識して、面会交流に対する信頼関係を確立すべきであると考える。

4 以上の次第で、これと異なる原審判は相当ではないから、原審判を上記の限度で変更することとして、主文のとおり決定する。

  平成25年12月13日

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