引き渡し・連れ去り

夫のDVを原因として離婚を考え、子連れ別居を1年程していたところに、学校帰りの子(8歳)を夫が連れ去られた際、子を取り戻すことはできるのでしょうか。

 

  • 夫のDVを原因として離婚を考え、子連れ別居を1年程していたところに、学校帰りの子(8歳)を夫が連れ去られた際、子を取り戻すことはできるのでしょうか。

 子の引渡しを求める方法としては、家事法による子の監護に関する処分としての子の引渡しを請求する方法、人身保護法による方法、人事訴訟法による離婚訴訟等の附帯請求による方法が考えられます。

 

  • 家事法による子の引渡し請求
    • 子の引渡しを求める家事審判、家事調停

 民法では、父母が離婚する場合において、子の監護について必要な事項について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が定めるものとされています。

 子の引渡し請求は、家事法別表2の3の項の子の監護に関する処分として、家庭裁判所に対して家事審判の申立てをすることができます。この場合の管轄は、子の住所地を管轄する家庭裁判所とされています。

 冒頭の事例のように、夫のDVがある場合には一般的に調停での円満な話し合いは難しいと思われ、また、そうでない事案においても、調停の場合には解決までに時間を要すると考えられることなどから、審判の申立てがなされることが多いようです。

 なお、家事調停の申立がなされた場合において、調停が成立しなかった場合には、家事調停の申立の時に家事審判の申立てがあったものとみなされて審判手続に移行し、審判手続においては、裁判所が一切の事情を考慮して審判をすることになります。

 また、子の引渡請求については、調停を行うことができる事件ですので、家事審判事件が係属している場合には、家庭裁判所は、当事者の意見を聴いて、いつでも職権で事件を家事調停に付することができます。

 なお、家庭裁判所は、子の引渡しに関する審判をする場合には、当事者の陳述を聴くことに加え、子が15歳以上の場合は、子の陳述も聴かなければならないとされています。

 また、子が15歳以上でない場合でも、子の陳述の聴取、調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならないとされています。

 子は父母の婚姻中はその共同親権に服することになっていますが、父母が別居して共同監護ができない状態になり、かつ監護について父母間で意見が一致しない場合における解決方法については特段の規定がありません。

このため、別居中の父母の一方が他方に対して子の引渡しを求めることの可否が問題となりますが、実務上は、子の監護に関する処分であると解されており、離婚前であっても、父母が別居中で子の引渡について話し合いがまとまらない場合や話し合いができない場合には、子の引渡しを求める家事審判や家事調停の手続を利用することができるものとされています。ただし、この場合は、原則として、子の監護者の指定の申立ても併せて行う必要があります。

 子の引渡しの審判及びその申立を却下する審判に対しては、即時抗告をすることができます。

 

  • 保全処分

 子に差し迫った危険があるなど、現状を放置していたのでは調停や審判による解決を図ることが困難になるというような事情がある場合には、併せて、仮に子の引渡を命ずる審判前の保全処分の申立てをすることもできます。

 従前、家事審判法においては、審判前の保全処分を求める前提として家事審判の申立てが必要とされていましたが、調停での解決を求める場合でも審判前の保全処分を求める場合には家事審判の申立てをせざるを得ず不合理であることから、家事法においては、家事新尾安の申立てがなされていなくても、家事調停の申立がなされていれば保全処分を求めることができるように改められました。

 

  • 強制執行

 家庭裁判所による審判や保全処分が出ても、相手方がその決定に従わない場合には、民事執行法による強制執行ができます。この点、もっとも直截な執行方法である直接強制による執行(執行官と一緒に相手方の所へ行って強制的に子供の引渡しを受ける)は、子どもに与える影響等の問題があるとして、直接強制は認められないという見解もあります。しかし、子の引渡しの実効性を確保するために、一定の要件のもとで直接強制が可能であると解して執行実務の運用がなされています。どのような場合に要件が備わっていると考えられるかについては、子どもの年齢が重視されており、意思能力が備わる前の小学校低学年程度の年齢であれば直接強制も可能と解して直接強制による執行が行われている事例が複数あるようです。

 この点、5歳と2歳の子の引渡しに関して、直接強制の方法によるべきである旨の付言をした審判(平成8年東京家裁)や、7歳9か月の子供について直接強制を行った事案について、一般的には意思能力を有していたものと解することはできず、その他意思能力を有していたと認め得る特段の事情も伺われないとして、強制執行が違法または不当なものとはいえないと判断した事例(平成21年東京地裁立川支部)などが参考として挙げられます。

 尚、子が自由意志に基づいて執行に反対した場合や、親が子を抱きかかえて離さない場合などには強制執行は執行不能として処理されることになります。

 直接強制により子の引渡を実現できない場合は、間接強制の方法(金銭を支払わせるという心理的圧迫を加えて履行させる方法)によることになりますが、この方法は、金銭の支払いを厭わない人や、逆に資力の乏しい人には効果が無いという難点があります。

  • 人身保護請求手続による方法
    • 人身保護請求手続きの利用

 人身保護法による人身保護請求は、本来、公権力の不当な行使による拘束から被拘束者を救済するための手続きですが、共同親権者間の子の引渡しをめぐる事件であっても、現在の監護者による子の拘束に顕著な違法性がある場合には、人身保護請求手続きを利用する余地があるとされています。

 この手続を利用するためには、地方裁判所又は高等裁判所に人身保護請求の裁判を提起することになりますが、その特徴としては、手続が極めて迅速であること、相手方の出頭を確保するための身柄の拘束などの手段が用意されていること、被拘束者である子どもの引渡は、裁判所によりなされることが挙げられます。

 殊に、子どもの引渡しについては、人身保護法及び同規制には認容判決(判決主文は相手方に引渡しを命ずるものではなく、「被拘束者を直ちに釈放する」として、裁判所が釈放し請求者に引渡す状態を形成する判決となります)の内容を実現するための規定がないのですが、実務では判決前に裁判所が拘束者から被拘束者(子ども)を預かり、判決言い渡し後、その判決に従い請求者に引渡す、という方法を取ることが多いのです。

 したがって、人身保護による手続きには「執行」とう概念は無い(執行力が無い)といわれていますが、実際には判決内容の実現性は高いといえます。

 

  • 人身保護請求手続きの限界

 しかし、最高裁判所は、平成5年に、「夫婦の一方が他人に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡を請求する場合において、幼児に対する他方の配偶者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、右監護が一方の配偶者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要する」と判示し、この類型の事件における人身保護手続を利用することの限界を指摘しました。

 次いで、平成6年には同じく最高裁で、前記判例の基準を満たす場合として、「拘束者に対し、家事審判規則52条の2又は53条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合」や、「幼児にとって請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使と言う観点から見てもこれを認容することができないような例外的な場合」を挙げています。

 その後、最高裁が拘束者の拘束に顕著な違法性があると認めた事案として、別居中の夫婦が離婚調停の期日における合意に基づき子らを期間を限って夫に預けたところ、夫が合意に反して期間後も子らを拘束した上、妻に無断で子らの住民票を移してしまったという事案があります。(平成6年最高裁)

 また、離婚等の調停期日における合意に基づき共同親権に服する幼児との面会が実現した機会に夫が子を連れ去って拘束した事案において、原審が夫による監護養育状況は良好で子の幸福に反することが明白とはいえないとして妻による人身保護請求を棄却したのに対し、最高裁は、「調停手続きの進行過程で当事者の協議により形成された合意を実力をもって一方的に破棄するものであって、調停手続きを無視し、これに対する上告人の信頼を踏みにじったものであるといわざると得ない。」と判示し顕著な違法性があると認めています。(平成11年最高裁)

 最高裁が顕著な違法性があると認めた事案は、いずれも調停期日において成立した合意に反して実力で子を拘束したという事案であり、このような傾向から、共同親権者間の子の引渡をめぐる事件で人身保護請求手続による救済が可能なのは、調停や当事者間の合意等により監護者が定められたにもかかわらず、その調停や合意等に反して、子を連れ去ったり、子を引き渡さないというような極めて限られた事案のみということになると考えられます。

 

  • 人事訴訟法による離婚訴訟等の附帯請求による方法

 上記の手続のほか、人事訴訟法により、離婚訴訟等の附帯請求(子の監護に関する処分)として、自らを親権者として指定することを求めるとともに、子を監護していない親が子を監護している親に対して子の引渡しを求めることもできます。なお、この場合も、子が15歳以上の場合は、その子の陳述を聴かなければならないものとされています。

 

  • 冒頭の事案の場合

 冒頭の事案の場合においては、家事法の手続による場合は、家庭裁判所に対し監護者の指定と子の引渡しを求める審判又は調停を求めることとなります。

 また、子に差し迫った危険がある場合には、同時に審判前の保全処分の申立てを行い、仮に引渡しを求める必要があります。

 これらの手続により申し立てが認められたにも関わらず、子の引渡が行われない場合(強制執行をしても実効性がなかった場合)には、人身保護請求の申立てを行うことで対応することになるでしょう。そして、このような場合には前述の最高裁判例(平成6年最高裁)に照らしても、人身保護請求が認められる可能性が高いと思われます。

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