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面会交流妨害の損害賠償請求のリーディングケース

面会交流についての履行確保の方法としては、①履行勧告、②間接強制(強制執行)、③再調停がありますが、もはや履行を期待しないものとして、損害賠償請求をする例も認められます。しかしながら、上記のとおり、静岡地裁は独自の見解で500万円を認容しましたが、誠実交渉義務に違反するとして、70万円程度の慰謝料を認めるものが多いといえます。しかし対審構造の民事訴訟でやるのですから、こどもとして訴訟で「訴えられている」「自分のせい」「多額のお金がとられる」という心情になりますので、通常はあまり生じない事象といえます。

シュシュとのパースペクティブ

シュシュ:悪いんだけどさ、普通の人の感受性を基準にすると、裁判で訴えられるということについての精神的負担感って大きいですよね。特に日本の場合は、裁判は1年程度かかりますから家庭内が「どんより」しないか心配です。いわば場外乱闘という気もしますから、こうした行動をとって誠実に話し合いをするのを拒んだのはむしろ非監護親の方ではないかということで、面会交流・拒否制限理由に該当することも加えた方が良いと思います。日本の場合、長期休みに、面会交流にキャンプ感覚で行くみたいなものがありませんから、日々のルーチンで多数回の面会交流を求めるのは、社会の実態に合っていないと思います。それは国のせいでもあるのでしょうけど。でも本件でも暴力を振るうというDVが認定されていますけどDVの人にいつまで突き合わされなければならないのかという問題も考えないといけないと思います。

弁護士:リーディングケースとして挙げられるのは、福岡高裁平成28年1月20日ですね。こんな経緯でした。本件では大分と熊本と移動にかなりの負担がかかるということも前提条件となります。

平成19年3月15日 婚姻後DV

平成20年9月から平成21年6月 別居

平成24年 二男出生

平成24年10月29日 別居

平成24年11月 一次面会交流調停

*調停係属中5回実施

平成25年4月15日 一次調停成立

平成25年4月20日 面会交流

平成25日5月11日 本件調停により第2土曜日が面会交流日だが父は現れず

平成25年5月13日 履行勧告事件の申立て

*履行勧告で協議を行い面会交流を行うよう勧告→家裁調査官により面会交流実施

平成25年7月6日 面会交流は条件付きであったため実施されず

平成25年8月2日 離婚調停

平成25年8月9日 父が履行勧告

平成25年8月9日 体調不良のため面会の協議ができず

その後書面による協議を続けるが、

 ・なぜ父の熊本に来られないのか

 ・郵送は不誠実

 ・問題は母親の精神状態と父が主張

不法行為の成否

シュシュ:まず、事実的に不法行為を構成するものなの。

弁護士:うん。高裁は抽象的なものにとどまると指摘し直ちに父の法的保護に値する利益が侵害されたとはいえないので、面会交流ができなかったという事実については不法行為は否定したんだ。

誠実協議義務

弁護士:誠実協議義務というと、団体交渉を思い起こしますが、配偶者暴力を受けていて離婚調停が進行中の人に対して、どの程度の誠実協議義務が認められるかは問題となると思います。本件調停は、面会交流の実施回数を月2回程度として原則として第2、第4とするなどかなり具体的に定めていた点が注目されます。

そして、当事者は面会交流を実施するため面会交流の条件の取り決めにむけて誠実に協議する条理上の注意義務(誠実協議義務)を負担しているものの、①正当な理由がある場合、②相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したこと、③回答を著しく遅滞すること、④社会通念に照らして実質的に協議を拒否したと評価される行為をしたこと―が例外事由に挙げられています。

DVがある場合は?

シュシュ:同居中に原告による被告に対する暴力があったことを考慮すると、DVなどの措置を講じることもあり得ることですね。

弁護士:そのほか、客観的に行き過ぎでも主観的な心情ではうなづける拒否事情がある場合なども考えられますね。いまいちよくわからないのが、確かに債務名義なんだけど、これだけ高葛藤であるのに月2回の面会交流なんて到底無理でしょう、そのことをなぜ協議しなかったの、という指摘をしていますね。これは調停外でも構わないような説示になっています。

シュシュ:加えて父母間の感情が高葛藤になっていたことですね。

弁護士:判決文からは分かりませんが、離婚直前の面会交流が親権の実質取得と変わらない効果を得ようと一番葛藤が高まる時期とはいえるのですね。

そのうえで、既に当事者間での感情的対立等によって面会交流のための協議自体困難になっていると指摘し、被告のみの責任にはできないとしています。

そのうえで、面会の回数も含め調停の場で面会交流について協議しようとしたことは相当の措置ということができそれ自体を不条理といえないとしています。

シュシュ:その後は、福岡高裁としては、協議の前提となる信頼感が損なわれているので、協議自体が不能になっていたみたいだね。郵送の細かいことが書いてあるけど。

弁護士:原審との比較だけど、①債務名義が守られていないとその特性も検討していないこと、②面会交流も月2回が日本において少ないという言及、③その他原告の暴力に全く言及せず、高葛藤状態であることを否定するなどしていることが結論を若手いるように思います。

 

 

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
   前記前提事実に加え,証拠(甲92,乙7,14,原告,被告Y1,被告Y2及び各項に掲げた証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められる。
  (1) 原告と被告Y1は,平成19年3月15日に婚姻した直後から,原告が被告Y1に暴力を振るうことがあり,夫婦関係が悪化して平成20年9月ないし10月ころ,被告Y1が実家に帰り,平成21年6月ころまで別居状態が続いたことがあった。その後,原告が被告Y1に暴力を振るわないことを約束して,同居を再開し,平成22年に長男,平成24年に二男が出生した。(甲92,乙7,原告本人,被告Y1本人)
   (なお,上記暴力の具体的内容及び時期は,的確な客観的証拠がなく認定することができない。また,被告Y1は,原告から暴言を浴びせられるなど人格を否定されるような扱いを受けたと主張しこれに沿った供述をするが,これを裏付ける客観的な証拠はない。かえって,証拠(甲40,42,103,104)によれば,別居後とはいえ被告Y1も原告に対してメール等で暴言を浴びせていたことが認められ,このことに照らすと,被告Y1が原告に対し恐怖感を抱いていたとはにわかに認められない。)
  (2) 被告Y1は,原告の言動に不満を募らせ,平成24年10月29日,子らを連れて別府市の実家に戻ろうとし,両親に迎えに来てもらった。原告は,同居している父親からこのことを知らされて自宅に戻り,子らを渡すことに抵抗したが,駆けつけた警察官の説得により被告Y1に二男(当時生後5か月余)を渡した。被告Y1は,二男を連れて実家に帰り,以後別居状態となった。(乙7)
  (3) 被告Y1は,平成24年11月,熊本家庭裁判所に第1調停事件の申立てをした。なお,平成25年2月までの間,原告は被告Y1に対し,二男との面会交流を求めたが,同被告は応じなかった(甲1ないし3)。
    第1調停事件係属中の平成25年2月から4月にかけて,5回程度,面会交流が実施された。このうち3回は熊本で行われたが,被告Y1は,母とともに二男を連れ,休憩も含めて片道約4時間半かけて自家用車で移動した(不測の事態が発生するのに備え,高速道路は利用せず,一般道で移動した。)。(被告Y1本人)
  (4) 平成25年4月15日,第1調停事件において本件調停が成立した。(甲5)
  (5) 4月20日,別府市内で面会交流が実施された。面会交流が終了して長男を原告に引き渡す際,被告Y1の父が,長男に対して,「守ってやれんでごめんな」などと発言した(4月20日の発言)が,このことにつき,原告は,同月21日に被告Y1に対して,上記発言は原告にとって不愉快であるし,子にとっても片親疎外という虐待に該当する旨の抗議のメールを出した。(甲39,原告本人)
  (6) 被告Y1は,5月11日,本件調停により面会交流日と定められた第2土曜日であったため,父とともに二男を連れて熊本市の原告の実家を訪れたところ,原告は被告Y1から事前に面会交流場所の連絡がなかったことから同日に被告Y1が来訪することはないものと誤解し,被告Y1に連絡しないまま長男とともに外出していたため面会交流ができなかった。(甲92,乙7,原告本人,被告Y1本人)
  (7) 被告Y1は,5月13日,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,原告に対し,同月27日までに被告Y1と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。
    一方,原告も,同月17日,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,同月30日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。その結果,熊本市内で面会交流が実施された。
   (甲49,50,95,乙9)
  (8) その後,原告と被告Y1は面会交流の日時や場所について協議を行い,6月15日,別府市内(ゆめタウン)において面会交流が実施された。
    その際,被告Y1が長男と手をつないで歩くと,原告は二男を抱いてその後ろを歩いた。
   (甲51ないし57,原告本人,被告Y1本人)
  (9) 原告と被告Y1は,メールにより面会交流の場所等を調整し,7月6日正午から午後5時までの間,大牟田市動物園(雨天等の場合は託麻総合出張所児童館)で面会交流を実施することを合意した。
    被告Y1は,前日の5日に原告に対して送信したメールにおいて,両親を同行する旨を伝えたが,原告は,被告Y1の父は以前から暴言癖があり4月20日の発言のこともあるので同行するのであれば,同人が暴言を反省し改善することを約束する旨のビデオを添付して送信するよう要求し,「面会交流についてはその内容を検討して決定したいと思います」(甲59)と述べた。これに対し,被告Y1は,面会交流当日朝のメールで,上記要求は屈辱的であり,かつ,本日中に送る術がないから応じられず,同日の面会交流は原告から拒否されたと理解する旨を述べた(甲61)。これに対し,原告は,なおも面会交流の実施を要求したが,上記ビデオの送付要求を撤回することはなかった。結局,7月6日の面会交流は実施されなかった。
   (甲58ないし62,原告本人,被告Y1)
  (10) 被告Y1は,7月16日,弁護士の被告Y2(平成24年12月に司法修習を終了して福岡県弁護士会に登録し,7月3日に別府市で開業した。)に法律相談をし,原告とどうしても離婚したい,幼児である二男を抱えての長距離の移動を伴う面会交流が二男にとって大きな負担となっているので面会の回数を減らしたい,また,原告の個性によりそのための協議が困難となっているなどと対処策を相談した。被告Y2は,数回にわたり被告Y1から話を聞いて,現状が二男にとって大きな負担であるとともに協議自体も困難であると考え,公平中立な第三者が関与する離婚調停の中で面会交流についての協議を行っていくという方針に決め,8月2日に,離婚調停の申立てにつき受任した。
    この間,原告は,被告Y1に対し,7月20日の面会交流について協議を求めたが,被告Y1は,同被告及び二男の体調不良を理由に面会交流を拒絶した。
  (11) 被告Y1は,8月5日,被告Y2を代理人として,大分家庭裁判所に第2調停事件の申立てをし,その際,1歳の幼児を養育しながらアルバイト勤務をしていること等から,遠隔地の熊本までに出向くことはできないとして,自庁処理の上申をした(乙1,2)。被告Y2は,仮に熊本家庭裁判所に移送になったとしても,9月中には面会交流の協議が可能であると考え,大分家庭裁判所の裁判所書記官に対し,移送になるのであれば,早く移送の審判を出してもらいたい旨を伝えた。
    被告Y2は,同月9日,原告に対して電話で,被告Y1の体調不良のため同月10日の面会交流は実施できない旨,第2調停事件の期日において面会交流の方法等について話し合いたい旨を伝えた。
    これに対し,原告は,被告Y2に対し,被告Y1の体調が悪いのであれば場所は別府市内で二男とだけでいいから面会交流を実施したい旨答えるとともに,被告Y1に対しても同趣旨をメールで申し入れたが,面会交流は実施されなかった(甲11,12)。
    被告Y2は,同月12日,改めて受任通知書を送付した(甲97,乙3)。
  (12) 原告は,8月8日に,熊本家庭裁判所に履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,同月25日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。これに対し,被告Y2は,本件調停で合意した以後面会交流の実施やそのための協議に問題が生じており,既に大分家庭裁判所に第2調停事件を申し立てているので,調停の場で協議したいとして,履行勧告には応じなかった。(甲10,15,乙9)
  (13) 原告は,9月24日,被告Y2に対し,面会交流を実施するよう求め,連絡は書面またはメールで行うことを求めるメールを送信した(甲13)。
    被告Y2は,調停の場での協議を考えていたが,手続が進行しないため,同月30日,原告に対し,原告と被告Y1が直接顔を合わせないよう別府市内の被告Y2の事務所で子の引渡しをして面会交流をすることを提案するメールを返信した(甲14)。
    これに対し,原告は,同日,上記提案に対しては直接答えず,7月6日以降面会交流がされていないことにつき被告Y2が関与したのかを質問するメールを送信したところ,被告Y2は,原告から上記提案に対する回答がなかったことから,面会交流の件については改めて書面で提案するというメールを返信した(甲15,16)。原告は,同日,被告Y2に対し,面会交流の件で関与についての否定はなく,回答を拒否したものと受け取ったとして,上記提案においてどのように子の福祉を考慮したものか説明してほしい等としたメールを送信した(甲17)。
    被告Y2は,以後メールでのやり取りを打ち切り,専ら書面郵送の方法で原告と連絡するようになった。
  (14) 被告Y2は,10月1日,書面により,原告に対し,調停申立てから約2か月経過しているため,弁護士立会いの下で別府市内(被告Y2の事務所)において面会交流をすることを提案した(甲18)。
    これに対し,原告は,同月3日,被告Y2に対し,面会交流の拒否が長期にわたっている現状では郵送という時間のかかる伝達手段は不誠実である,被告Y2が本件調停の条項に違反する教唆を被告Y1にした可能性があることが分かったので,その責任については検討している,被告Y1が熊本に行くことが困難な理由を説明してほしい,面会交流の内容には問題がなく,問題があるとすれば被告Y1の精神状態である等としたメールを送信した(甲19)。
    被告Y2は,同月4日,書面郵送の方法を用いる理由は「意見の対立がみられるため,争点を明確化し,適格に解決すべく」(原文ママ)というものであること,場所を被告Y2の事務所とする理由は被告Y1の両親が多忙であるためであるなどと返答し,面会交流に関する協議は,第2調停事件において家庭裁判所調査官関与の上で試行的面会交流をするのが適切であると回答した(甲20)。
    その後,原告と被告Y2との間で,10月21日までの間,被告Y2がメールを利用しない理由や面会交流の場所をどうするかなどにつき,原告からはメールで,被告Y2からは書面郵送の方法でやり取りがされ,途中,原告から中間地点である大牟田市動物園での面会交流の提案があったが,被告Y1の父の同行の可否を巡って合意には至らなかった(甲21~25)。
  (15) この間,大分家庭裁判所は,10月1日,第2調停事件を熊本家庭裁判所に移送する旨の審判をした。ところが,被告Y2が申立書に原告の住所を誤って記載していたため(正確な住所は熊本市東区(以下略)であるが,熊本市東区(以下略)と記載されていた。),原告に審判書を送達するのに時間を要した。被告Y2は,本件調停調書の記載等から原告の正確な住所を容易に認識することができる状態にあったが,それまで普通郵便では誤記した住所でも届いていたため(郵便局の取扱いでは,普通郵便については住所に多少の誤記があっても配達されることがあるが,書留郵便等においては正確な住所を記載しない限り配達しないこととされている。),原告の住所を誤解していた。
   (甲5,乙1,4~6)
  (16) 被告Y2は,10月22日,大分家庭裁判所から原告に移送の審判書が送達できないとの連絡を受けたので,原告が受領を拒否しているのではないかと考え,一度は受領を求める書留郵便(乙5)を送ったがこれも原告に届かなかったため,その後は原告に対して書面郵送の方法も含め連絡をしなかった。そこで,原告は,同月31日,熊本家庭裁判所に再度履行勧告の申立てをした。熊本家庭裁判所は,被告Y1に対し,11月15日までに原告と協議を行い面会交流を行うよう勧告をした。被告Y2は,同裁判所に原告に送達できない現状を話し,同裁判所調査官から原告の住所の開示を受けた。
   (甲26,乙9)
  (17) 被告Y2は,11月12日,大分家庭裁判所に住所訂正の上申書を提出し,同月17日ころ,原告に対し移送の審判書が送達された。被告Y2は,上記調査官からの連絡に対し,1,2週間中に原告に手紙を送る意向であることを話した。(甲27,乙6,9)
  (18) 原告は,12月10日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。同月17日,熊本家庭裁判所から被告Y2に対し,第2調停事件の期日の調整の連絡があった。
    被告Y2は,同日,原告に対し,漸く移送が行われたので,第1回調停期日への出席を求めるとともに,大牟田市動物園での面会交流の提案(被告Y1の両親も同行するが,子の受け渡しの場所で父は席をはずす内容)をした(乙10の4)。これに対し,原告は,同月19日,二男の体調を考え,熊本市子ども文化会館の室内での面会を希望するとともに,被告Y1の父の同行を拒否するメールを送信した(乙10の5)。
    同日被告Y2に,翌20日被告Y1にそれぞれ訴状が送達された(裁判所に顕著な事実)。
    被告Y2は,本件訴えの被告となっていることにショックを受けるとともに,共同被告の立場を考え,いったん本件事件の関与から離れることにし,同じ事務所のA弁護士が本件事件に関与するようになった(乙10の7)。
  (19) 平成26年1月23日の第2調停事件の第1回調停期日において,原告と被告Y2との間で面会交流について協議がされ,被告Y1が父親の同行の点を譲歩したこともあり,協議が成立し,同年2月1日に熊本市内で面会交流が実施された(甲82,83)。
  (20) 原告は,同年2月17日ころ,被告Y2に対し,候補日を同月22日か23日として,次回の面会交流についての申し出をしたが,いずれの日も被告Y1の都合がつかず,面会交流は行われなかった(甲84ないし87,乙8,14)。」
 2 不法行為の成否
   上記1認定の事実に基づき,不法行為の成否について判断する。
  (1) 本件調停成立以前の不法行為について
    原告は,被告Y1が平成24年10月29日から平成25年2月2日まで面会交流を実施しなかった旨主張するところ,前記のとおり,被告Y1は,原告の面会交流の求めに応じなかったものである。
    確かに,監護親は,子の福祉のため,別居中の非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるように努力すべきであり,協議が調わないときまたは協議をすることができないときは,非監護親は,民法766条を類推適用して,家庭裁判所にこれを求める調停・審判を求めることができる。
    もっとも,調停・審判により面会交流の具体的日時,場所,方法等が定められて具体的権利として形成されるまでは,面会交流を求める非監護親の権利を仮にこれを観念できるとしても,いまだ抽象的なものにとどまるというべきである。したがって,本件調停成立前の上記期間中に,原告が二男と面会交流をすることができなかったからといって,直ちに原告の法的保護に値する利益が侵害されたとはいえないから,被告Y1のその間の行為が原告に対する不法行為を構成するということはできない。上記判断に反する原告の主張は採用できない。
  (2) 本件調停成立以降の不法行為について
   ア 本件調停においては,面会交流の実施回数と実施日を月2回程度(原則として第2,第4土曜日)と具体的に定めた上で,その具体的日時,場所,方法等の詳細については当事者間の協議に委ねている。そして,面会交流が子の福祉のために重要な役割を果たすことに鑑みれば,当事者は,本件調停を尊重し,これに従って面会交流を実施するため具体的日時,場所,方法等の詳細な面会交流の条件の取決めに向けて誠実に協議すべき条理上の注意義務(誠実協議義務)を負担していると解するのが相当である。そして,一方当事者が,正当な理由なくこの点に関する一切の協議を拒否した場合とか,相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したり,協議の申入れに対する回答を著しく遅滞するなど,社会通念に照らし実質的に協議を拒否したと評価される行為をした場合には,誠実協議義務に違反するものであり,本件調停によって具体化された相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして,相手方当事者に対する不法行為を構成するというべきである。
   イ そこで,以上の観点に基づき,各時期について,被告らに誠実協議義務違反があったといえるかについて検討する。
    (ア) (平成25年)7月6日から8月上旬までの期間
      前記認定のとおり,7月6日の面会交流につき,被告Y1の父を同行するか否かの点で意見の一致をみなかったため,原告と被告Y1の協議が決裂し,結局,同日の面会交流は実施されなかった。
      確かに,被告Y1の父による4月20日の発言は,長男が母である被告Y1の監護下にあるべきことを前提として,長男が父である原告の監護下にあることが不当であって,長男を被告Y1の監護下に置けなかったことを「守ってやれなかった」と表現したものと受け取れるものであって,原告や長男に対して配慮が足りなかった発言といえる(もっとも,その表現自体からは,原告と被告Y1の夫婦関係が悪化し別居しなければならない事態になったことについて,長男がこれに巻き込まれたことに対する悔悟の念を表したものとも解されないではない。その意味で,被告Y1の父がかかる発言をしたことの真意は必ずしも明らかではない。)。また,被告Y1の父は日頃から激しい言動をする人物であることが窺われる(甲60参照。ただし,「暴言」の具体的態様,内容は明らかではない。)ことから,原告が被告Y1の父が上記発言を謝罪しまたは反省の念を明らかにし,これを動画にして送信することを求め,これが履行されない限り,面会交流での同人の同席を拒否することは理解できないではない。
      しかし,同居中に原告による被告Y1に対する暴力があったことを考慮すると,父の立会いがなければ面会交流を実施できないとした被告Y1の態度は理解することができ,必ずしも不当であるとまではいえない。また,原告がメールに添付して動画を送付するという方法での父の謝罪または反省の念の表明を撮影した動画の送付を要求したことは客観的にみても行き過ぎであって,被告Y1としてはたやすく承服できない内容であったというべきである。しかも,原告は,この謝罪または反省の念の表明を撮影した動画の送信が面会条件交渉の前提であるかのようなメールを被告Y1に送信しており,被告Y1にしてみれば,上記のような無理な条件を面会交流の条件としていることから,原告が実質的には面会交流を拒絶しているかのように受け取るのもあながち無理からぬところであったというべきである(なお,原告の上記要求は面会交流が予定されていた当日朝になっても撤回されなかった。)。そうすると,7月6日の面会交流に際し,被告Y1が事実上の協議拒否をしたとは評価できない。
      その後,7月20日についても面会交流は実施されていないが,被告Y1は,自分自身及び二男の体調不良をその理由としており,これが虚偽であることを認めるに足りる証拠はないので,このことをもって被告Y1に誠実協議義務違反があったということはできない。
      したがって,同期間中の被告Y1の行為は,原告に対する不法行為を構成するものではない。
    (イ) 被告Y2受任後9月末までの期間
      確かに,月2回程度の面会交流を認める旨の本件調停が成立していたので,その内容を変更するような合意が成立したり,その旨の審判がされない限り,本件調停の効力は存続しているから,被告Y1の代理人であり,法律の専門家たる弁護士である被告Y2としては,本件調停の内容を遵守することを前提に,原告と誠実に協議するか,少なくとも,第2調停事件の申立てに先立ち,原告との間で,面会の回数等を含め面会交流の実施に向けた具体的な協議をしてしかるべきであった。
      この点,被告Y2は,第2調停事件での調停の場で面会交流についての協議を考えていたものであるが,第2調停事件の申立てに先立ち原告との間で,面会の回数等を含め協議することもないまま,第2調停事件の申立てをするとともに,その後面会交流の具体的条件については同事件の調停の期日において話し合いたいと述べるにとどまったものである。かかる被告Y2の対応は,原告にしてみれば,本件調停をないがしろにし,これを遵守する意思のないことの表明であると受け止めても仕方のないことのように思われる。のみならず,被告Y2は,本件調停が成立した熊本家庭裁判所による履行勧告に対しても,調停の場で協議したいとして,応じなかったものである。このような被告Y2の行為は本件調停の存在に照らし適切さを欠くものというほかない。
      しかし,当時,既に当事者間での感情的対立等によって面会交流のための協議自体が困難になっており,前記認定の経緯に照らすと,その原因をもっぱら被告らに帰することはできない。そもそも,交互に相手方の住所地で行うことを前提とすれば,少なくとも毎月1回,1歳の幼子である二男を抱え,休憩を含むとはいえ4時間半もの時間をかけて,自家用車で大分県別府市から熊本市へ移動することが,二男はもとより被告Y1にとっても大きな負担となっていたと推察される。したがって,被告Y1及びその代理人弁護士である被告Y2が,面会の回数を含め,第2調停事件の調停の場で面会交流について協議しようとしたことは相当な措置であったといえ,それ自体を不合理ということはできない。
      また,その後,管轄裁判所ではない大分家庭裁判所に調停を申し立て,自庁処理を求めたことも,被告ら自身の裁判所への出頭の便を考慮すると相応の理由があり,そのことが,特に面会交流の遅延を目的とした不当なものということはできない。
      さらに,9月24日から原告と被告Y2の間で直接協議がされ,被告Y2も,9月30日,第2調停事件の場での協議を考えていたものの,手続が進行しなかったことから早期の面会交流を実現するため,別府市内の同被告の事務所で子の受渡しをする面会交流案を提示しているのである。この面会交流は結局実施されなかったものの,その原因がもっぱら被告Y2にあるといえないことは,原告が被告Y2の上記提案に対し,これまでの面会交流の不実施に被告Y2が関与していたか,被告Y2の提案した面会条件がどのように子の福祉を考慮したものか回答を求めた上,その回答が面会交流実施の前提条件であるかのように告げ,被告Y2提案の面会条件を受け入れることもなく,また自らも具体的な面会条件の提案をしなかったこともその一因と認められることからも明らかである。
      これらの点を考慮すれば,被告Y2の上記行為につき,その手法に不適切なところはあったものの,原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったということはできない。被告Y1についても同様である。
    (ウ) 10月以降
      (イ)で説示したことに加え,当事者間での感情的対立等によって面会交流のための協議自体がますます困難になっていたこと(被告らの対応の不適切さもあって,原告は,9月30日には,この間面会交流がなされていないことにつき被告Y2が関与したのかを質問し,10月3日には,被告Y2が本件調停の条項に違反する教唆をした可能性が分かったので,その責任について検討している等,原告のメールの内容は被告らに対する不信感をあらわにした激烈な内容になるとともに,面会交流の方法等について必要以上とも思える説明を求めるもので,協議の前提となる信頼感が失われていった。),移送審判書の原告に対する送達が遅くなったのは,被告らの不注意によって原告の住所を誤記したことによるものであり,それ以上に被告らが面会交流の実施を意図的に遅延させる故意によりしたものではないこと,被告Y2と原告との間では,10月の初めころから同月21日までの間,合意には至らなかったものの,面会交流の協議がなされていたこと,被告Y2は10月21日以後原告に対して書面郵送の方法も含め連絡をしなかったが,これは大分家庭裁判所から原告に移送審判書を送達できないとの連絡を受けたので,原告が受領を拒否しているのではないかと考え,一度は受領を求める書留郵便を送ったが届かなかったためであること,被告Y2は,原告に対し,第2調停事件の第1回期日の前である12月17日に面会交流の提案をしたが,いずれも主として被告Y1の父親の同行を巡って面会交流は実施されなかったものである。上記面会交流の不実施自体は被告Y1により面会交流を拒否したことによるものであるが,原告は被告Y1の父の同行を拒否しており,原告がこれに固執したことにより被告Y1がこれに反発して面会交流を拒否した側面もあり,上記不実施が一方的に被告らの責めに帰すべきものとはいえない(4月20日の発言があったものの,同居中に原告による暴力があったことに照らせば,被告Y1の父親の同行に固執した点が不当であるということはできない。)。そうすると,(イ)と同様,被告Y2につき,その手法に不適切なところはあったものの,原告に対する不法行為責任を生じさせるような誠実協議義務違反があったと認めることことはできない。被告Y1についても同様である。
      原告は,被告Y2との間での面会交流に関する協議に際し,被告Y2がメールではなく専ら書面郵送の方法により原告に連絡をしていることが,面会交流の不実施を目的とする意図的な遅延行為であると主張する。確かに,メールに比較して書面郵送に時間がかかるのは原告主張のとおりであり,特に,面会の日時,場所,方法等に関する単なる事務的な打合せのためには,双方の都合の調整のため必要に応じて1日に何度もやりとりが可能なメールによる方法が便宜であるとはいえる。しかし,書面郵送による連絡方法を採ることが,面会交流の実質的拒否に匹敵するほどの遅延を招くものとは通常は考えにくい。本件において,被告Y2が受任した後に面会交流が実施されなかった原因は,上記認定説示のとおり,双方の感情的対立等から面会条件の具体的協議が困難になったことによるものであって,被告Y2が書面郵送による連絡方法をとったことによるものでないことは明らかである。また,内容によっては慎重さを期すために書面による方法が適切な場合もあり,本件においても,原告は,協議に際し,被告Y2の受任後の面会交流の拒否が被告Y2の教唆によるものか,被告Y2の提案した面会条件が子の福祉を考慮したものか回答を求めるなど,その回答の可否の判断及びその内容を直ちに回答することが困難な事項も含まれている。これらの事項は,上記事務的打合せの範囲を超えるものである上,原告は,その点に関する回答が面会交流実施の前提条件のように読めるメールを被告Y2に送信しているのである。その場合,被告Y2がこれに即事に回答することはいずれにせよ困難であり,被告Y2から原告への連絡方法が書面郵送によることが面会交流の協議の進展に実質的な影響があったことは窺われない。なお,そもそも原告は,当初は連絡は書面またはメールで行うことを求めていたものである(甲13)。
      以上のとおり,被告Y2が原告との連絡方法として採った書面郵送の方法が適切さを欠くということはできないし,ましてやこの方法を採ったことが,ことさら面会交流の遅延を目的としたものであるなど,原告に対する不法行為責任を生じさせるような行為であると認めることは到底できない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
    (エ) 平成26年2月22日ころ(当審における新たな主張)
      前記認定のとおり,原告は,同月17日ころ,被告Y2に対し,候補日を同月22日か23日として,次回の面会交流についての申し出をしたものの,いずれの日も被告Y1の都合がつかず,面会交流は行われなかったものであり,被告Y1がことさら面会交流を回避するために虚偽の都合を述べたと認めるに足りる証拠もないから,このことが原告に対する不法行為を構成するものではない。
      なお,原告は,当審において,被告Y1は二男を連れ去ったものであり,このことが独自の不法行為を構成する旨主張するが,前記認定のとおり,原告が警察官の説得に応じて当時生後5か月余の二男を任意に被告Y1に渡し,同女が実家に連れ帰ったものであり,このような経緯及び二男の年齢等に照らし,被告Y1の上記行為が原告に対する不法行為を構成するものでないことは明らかである。
    (オ) 原告のその他の主張について
      原告は,その他縷々主張するが,いずれも採用の限りではなく,上記認定判断を左右するものではない。