財産分与

国民年金基金は財産分与の対象になるの?

国民年金基金は、弁護士のような個人事業者が加入している国民年金では、将来受け取ることができる年金額が僅少であることから、全額経費とすることができる上乗せのための基金といっても良いと思います。具体的には、厚生年金に加入していない自営業者等が,将来的に受け取る年金額を上乗せできるように設けられた公的な年金制度です。私の周りでは、数万円から毎月20万円程度収めている方もいます。

国民年金基金の掛け金は,加入年齢等により異なりますが,最低でも月に1万円程度となります。したがって、上記のように毎月20万円支払っている弁護士などの個人事業主の場合、婚姻期間に支払った掛け金の総額が相当に大きな金額になることも珍しくありません。

この点、私的年金として財産分与の対象になるのかが問題となります。

服部弁護士とシュシュとのパースペクティブ

シュシュ:社会的実態として、60歳で単身生活の女性の場合、日常生活にかかる費用は月15万円程度といわれているよ。もっとも持ち家率が85パーセントと高いのが特徴で、住居費を除いてもこれくらいはかかるということになるみたいだね。
弁護士 :このパースペクティブの段階で老齢基礎年金は78万100円、月額6万5000円で生活保護以下なんだよね。そういう意味で個人事業者は国民年金基金に加入し将来に備えるわけだね。年金分割の対象は厚生年金だけということになりますが、私的年金は財産分与の対象になります。そこで、国民年金基金だけど、シュシュはどのように考えるかな。
シュシュ:年金分割制度が作られたように、将来の分割給付を現在時に引き直して直ちに支払うというのは難しいと思うので、立法政策がない限り年金分割の対象にならないことは明らかだね。ただし財産分与で私的年金に類似するものとして、財産分与の対象として考慮するのは、あり得ると思います。
弁護士 :でも、どのように分けるかが問題となるよね。また、結婚期間も考えないといけないし、簡易迅速な解決は望めなくなりそうだね。
シュシュ:財産分与と同じく、手続きの基本的な流れとしては,財産の価値を把握した上で,どのように分与するかを決められるかだよね。
弁護士 :確定拠出型年金によく似ているのかなあと思いますが、拠出額は確定していますが、将来、その拠出額がもらえる保障がないのが問題点ですね。
シュシュ:国民年金基金は税金の側面もあり、掛け金を払い戻せる性質のものではないよね。だから解約返戻金という概念もないし、すべてを考慮すると男性に酷なのでどのように利益の調和を図るかが問題となるね。
弁護士 :そもそも、年金分割制度自体が、将来的に掛け金分の年金を受給できるかどうかは,受給者が受給期間中に生存しているか等,不確定な条件に影響されるので、立法的解決が図られたものだからね。
シュシュ:横浜地判相模原支部平成11年7月30日判時1708号142頁では、離婚による財産分与として、夫の年金と妻の年金の差額の4割を妻の死亡迄支払うことが命じられた事例があるよ。
弁護士 :そもそも年金分割法というのは、平成16年2月に閣議決定されて、平成19年4月以降からの離婚から適用されるようになったんだ。その間は、熟年離婚を助長させるということで、議論は長くされてきた経緯があり自民党が難色を示してきたという経過があるのです。
シュシュ:ということは、この相模原支部の判決というのは、過渡期の救済判例としての意義しかないのかもしれないね。
弁護士 :実際、財産分与として、夫の受給する年金の事実上の分割を認めた数少ない公表判例なのだけど、離婚した妻に対して、妻も一生、婚姻費用のようなものを支払わなければならない、支払いを受ける手間などは相当なもので、心理的側面をみると非常識な「据わりの悪い」判決だと思います。
シュシュ:うん、終身定期金契約みたいだよね。それに相模原支部の判決は、夫の有責性が非常に高かったケースみたいで、扶養的財産分与として考慮されている側面があるね。十分な財産分与がないので、こういう過渡期に、こういう判決が出たのではないかな。
弁護士 :相模原の事案では、原告は、一時金の支払いを求めているみたいだね。たしかに、双方の手続負担は考慮要素になるし、離婚しているのに関係が支払を通じて継続することなど問題がありそうだね。
シュシュ:この事案は、控訴されて、高裁で和解し、夫から妻に土地建物全体を譲渡することになったそうです。その他に夫に資産がない事例だったそうです。
弁護士 :なので相模原支部の判決は確定判決ではないということだね。問題点は養育費とよく似た問題だと思います。
シュシュ:判決内容をみると、特段、厚生年金と厚生年金基金、福祉年金をそれぞれ合算して、扶養的財産分与として、今後被告の受領する年金(退職年金は除く。)の内前記原告受領額との差額の四割相当額について被告から原告に支払わせることが相当であるから、原告死亡まで月額16万円を支払わせることとする、とあるので、特段、厚生年金基金部分のみを念頭に置いた裁判例ではないみたいだね。
弁護士 :そもそも、年金分割制度があり、その対象外の公的年金は分割の対象にならないと解するのが相当のように思われるね。そうでなければ、どうして、国民年金基金の分割制度がもうけられなかったのか説明がつかないよね。
シュシュ:女性の立場からしてみても、掛け金の金額がそのまま財産分与の対象となるのではなく,一括の支払いとなるのか,分割の支払いにするとして,その割合や終期はどのように決めるのか,なんでしょうけど。
弁護士 :最終的には公平の観念で決めたのでしょうけど、ベースは十分な財産分与がなされている場合は、国民年金基金は、その公的性から分割の対象にならないような気がします。繰り返すけど個人事業者は、国民年金では、月額6万円程度しか受け取れないわけだから、被分割者と分割請求者との利益衡量がとても難しいと思います。結論において、僕は、公的年金は行政法の世界なので、解約返戻金がない以上、民事法の領域である財産分与では、認められない、という解釈が相当ではないか、と思います。相模原の事例は、家以外に財産がないという究極的な事案のようですしね。それに慰謝料の支払いは免れなかったようなので、いずれにせよ自宅は競売にかけざるを得ない状況だったようです。おそらく東京高裁では、年金に関する事項は一切取り決め無しの和解となっていると思いますので、高裁で破棄される可能性の高い事例といえそうですね。また、退職年金は計算ができるので、これを中心に財産分与を論じなかった相模原支部の判決は疑問ですね。
シュシュ:家事だけで考えると公平で分割になるけど、行政的側面もあるから行政立法の領域に踏み込んでしまっているということですね。
弁護士 :結論的には、国民年金基金を財産分与で考慮することは可能としても、斟酌程度にとどまり、ベースとして主張することは困難ということにしましょう。ただし、特殊な事例は考慮されることもあるということですね。今後の立法が待たれますね。

横浜地方裁判所相模原支部判決平成11年7月30日
三 慰謝料
前記認定の原告と被告との婚姻が破綻に至った経緯その他諸般の事情を考慮すると、原告の被告に対する離婚慰藉料は二〇○万円とするのが相当である。
四 財産分与
1 本件土地建物
《証拠略》によれば、次のとおり認められる。
原告と被告は、婚姻後の昭和四二年三月、自宅である本件土地建物を三三〇万円で購入した。代金は各自が二分の一ずつ出し合、原告と被告の各二分の一の共有名義で登記をしたのであるが、原告は婚姻時に持参したその父から譲り受けた株券を処分し、被告は勤務会社の共済組合と住宅金融公庫から借入をして資金を作った。また、昭和四九年ころには自宅の改築もしたが、その際も原告と被告それぞれ二分の一宛費用負担し、その際も被告は金融機関から資金を借り入れした。被告の右各借入については、その後被告の給料から返済を続け、現在返済は終わって抵当権も抹消されている。
そうすると、本件土地建物の内被告持分(二分の一)が原告被告が共同して形成したものとして財産分与の対象になる。
本件土地建物の評価額は四六一二万円である。
なお、本件土地建物に課された固定資産税、保全費用は被告の収入から支出されてきた。
2 その他
《証拠略》によれば、次のとおり認められる。
(一) 預貯金等
被告名義の預貯金、株式、転換社債があり、その評価額は合計約六五〇〇万円である。
被告は、被告本人尋問において、これ以外に原告が相当額の預金(いわゆるへそくり)をしているはずだと供述するが、原告は、原告本人尋問において、被告から受け取っていた金員は家計に費消しており、その中から貯め込んだ金員はないと供述しており、そのような預貯金の存在を認めるに足りる証拠はない。
(二) 退職金
被告は、会社を退職するに当たり、一時金として約六〇〇万円の支給を受け、その後年金として年に約二三〇万円(健康保険料を含む。)を二〇年間支給されることになった。
右退職金については、被告がいったん選択した企業年金として受け取る方式を途中解約した場合は、既に支払った年金と元金の差額に市中金利相当分を計算して払い戻されることになっている。
平成一一年三月の支払を含めた支払総額は八〇一万五〇〇〇円(一一四万五〇〇〇円《半年分》×七回、健康保険料を含む)である。そうすると、平成一一年三月以降解約したとすると、その場合の受け取り金額は、元金一九九七万一九〇〇円から右既払分との差額一一九五万六九〇〇円となる。
(三) 年金
(1) 被告は、(1)老齢厚生年金、(2)乙山電器厚生年金基金の基本年金及び加算年金、(3)乙山電器福祉年金を受給している。その税引後の支給年額は、(1)が二一五万〇六六〇円、(2)が基本年金と加算年金と合わせて二三五万八二九二円、(3)が九〇万一二五二円である。
(2) 原告の年金
原告の六五歳からの年金支給見込額は年額四六万八三三五円である。この内訳は、厚生省年金期間(婚姻前の就業期間)六月、一号納付(自分で保険料を納付)期間一三一月及び三号納付(配偶者の加入している年金制度から納付)期間一○八月となっているが、その大半が婚姻後のものでありその間は被告の収入から保険料が納付されたものと認められるから、右年金見込額全額を財産分与算定の考慮事由とする。
(3) 被告の受給する年金額五四一万〇二〇四円から原告の受給する年金額四六万八三三五円を控除すると四九四万一八六九円となる。
なお、原告は、神戸市灘区内に相続した所有土地があり、駐車場として賃貸しており、経費等を控除して月訳一四万円余りの収入がある。
(四) 保険金受領権
被告は、(1)乙山電器共済会グループ生命保険、(2)住友海上火災傷害保険等に加入しているが、(1)は一年毎の清算型で年間の配当金は一万数千円であり、(2)の解約返戻金については明確ではない。
結局右保険金受領権等は財産分与算定において考慮するものとはならない。
3 以上の本件土地建物の持分二分の一相当額二三〇六万円、預貯金等約六五〇〇万円及び退職金の年金方式部分を解約した場合の受取金額約一一九五万円の合計額は約一億〇○○一万円となる。
右財産形成についての原告被告の生活状況など諸般の事情を考慮すると、原告の請求しうる財産分与請求額はその五分の二とするのが相当である。そうすると、原告が請求しうる財産分与は四〇〇〇万円となる。
原告は、本件土地建物の現物分与を求めていること、原告は本件土地建物に二分の一の固有の持分を有していること等を考慮すれば、本件土地建物の被告の持分の二分の一を、原告に分与することが相当である。
なお、原告は、被告に対し、本件建物からの退去明渡しを求めているが、現在共有持分二分の一を有する被告に対し本件建物からの退去を求めることはできない(その求める趣旨が財産分与の結果本件建物の所有件が全部原告に帰することになってからのこととすると、現時点でこれを求める必要性は認められない。)。
本件土地建物の被告の持分全部(二分の一)を原告に財産分与すると、その評価額は二三〇六万円となるから、その他一括的財産分与として被告から原告に一六九四万円を支払わせることとする。
さらに、扶養的財産分与として、今後被告の受領する年金(退職年金は除く。)の内前記原告受領額との差額の四割相当額について被告から原告に支払わせることが相当であるから、原告死亡まで月額一六万円を支払わせることとする。
第四 よって、原告の請求は被告に対し、離婚及び慰藉料二〇〇万円の支払を求める限度で理由があり、財産分与として被告から原告に、本件土地建物の被告持分(二分の一)の分与、一六九四万円の一括支払、原告死亡まで月額一六万円の支払をさせることが相当である。

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