財産分与

有責配偶者から申し出る財産分与の申出

有責配偶者の側から財産分与の申出をすることはできるのでしょうか。

一、X(大正11年生れ)とY(昭和2年生れ)は昭和30年11月挙式して同棲し、同31年9月婚姻届をしたが、両者の間に同年32年1月長男が出生した。
XとYは結婚当初からXの母らと共に同居して生活を営んだ、母がYに辛く当ることがあったため両者の折合いは円満を欠いていた。
昭和31年11月にYの妹の結婚式にXが欠席することになったことをめぐって、X、母、Y間の感情がこじれ、以後Yは実家に帰ったままとなった。
そこでXは昭和32年12月婚姻を継続し難い重大な事由があるとしてYとの離婚を訴求したが、一、二審共敗訴し、上告したものの昭和45年10月16日上告棄却の判決を受けた。
この訴訟におけるX敗訴の理由は、XYの別居は主としてX及びその母がその責任を負うべきであり、Xの離婚権の行使は信義則に反するというものであった。

Xは右離婚訴訟の係属中、2人の女性と順次内縁関係を結んで二子をもうけ、Yは長男と共に生活を送っているうち、昭和61年に至り、Xから再びYとの離婚を訴求したのが本件である。
本件においてXは、Yとの別居が30年余になり、前訴の確定判決からでも18年余を経過していること、XはY及び長男に対し昭和54年1月から同63年9月までに、生活費等として約4800万円の仕送りをしてきたもので、長男は既に大学を卒業して社会人になっていること、Yは単にXらに対する憎悪感情からXとの離婚を拒み、種々嫌がらせに出ていることなどからして、XYのいずれが有責であるかという判断を離れて、純粋な破綻主義の立場から離婚を認めるべきである旨主張すると共に、Yに対し1000万円以上の財産分与をする旨の申立をした。

YはXの右主張を争ったが、裁判所は、XYの別居期間が33年に及び両者の間に未成熟子がいないこと、Xの内縁関係はYとの婚姻が破綻した後のことであること、XのYに対する愛情は全く失われ、YとしてもXとの婚姻生活の回復が期待し難いことを認識していることなどの事実を認めたうえ、Xの離婚請求を認容し、同時に、財産分与の申立は財産分与者からもなしうると解し、Xの申立に基づき、XからYに対し1200万円の財産分与をすることを命じた。

二、最大判昭62・9・2(民集41巻6号1423頁、判時1243号3頁)は、従来の判例を変更して「有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦が36年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである」と判示した。
有責配偶者からの離婚請求を認めるための別居期間は、有責性を風化させるに足る相当の長期間であることが必要であり、別居期間が右事案のように36年にも及ぶ場合はもとより、20年ないし15年であっても無条件に長期としてよいであろうが(最判昭62・11・24本誌654号137頁、同昭63・2・12本誌662号80頁、同昭63・4・7家月40巻7号171頁)、10年にも満たないような場合には、同居期間や両当事者の年齢と対比して相当の長期間とはいえないと判断されることがありえよう。
もっとも、この別居期間は、婚姻の拘束力の弱化に伴い、あるいは社会の意識の変化に伴い、今後一層短いものになるかもしれないといわれており(門口正人・前記「判解」曹時40巻11号305頁以下)、今後の判例の集積が期待されるところである。
本判決は、前記最高裁判決に従い、別居生活が33年に及び両者間に未成熟子のない夫婦について、夫敗訴の前訴確定判決から18年余の後に夫からの離婚請求を認めた事例である。

なお、前記最高裁判決後の同種裁判例を分折したものとしては、山口純夫「有責配偶者の離婚請求」、有責配偶者からの離婚請求を排除した最近の判決(別居期間8年余)として最判平成元・3・28がある。
三、次に、本判決が財産分与をするXからの申立に基づきYへの財産分与を認めた点は新判例として注目される。
本判決のような解釈は、前記最高裁(大法廷)判決の補足意見(角田・林両裁判官)において示されており、また、既に精神病離婚に関する最判昭33・7・25の判例批評(山木戸克己・民商40巻3号107頁)で「民768条や人訴15条によれば、財産分与はこれを受ける者の側から申立てるべきであるが、本判決の理論からすれば、給付すべき者の側からも申立ができると解しなければならぬ」と指摘されていたところである。
財産分与の性質が非訟事件であることからすれば、給付すべき者からの財産分与の申立を認めることは理論的に問題がないと考えられるが、非訟事件であっても、権利者の意を無視して一方的に財産分与を給付するのは問題であるので、給付を命ずるためには、まず権利者である相手方に予備的申立をさせるか、又は給付を受ける旨の承諾を取ることが必要であるとの意見もみられる

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