慰謝料

不貞行為の有無①―不貞不倫の弁護ならヒラソル

不貞行為の有無

不貞行為の有無の服部弁護士と院生伊串くんとのパースペクティブ

院生 :不貞行為が認められるかですが、僕の友人も多額の慰謝料を請求されたことがあって、ひとごとではありません。
弁護士:ひとごとではないんだ(笑)。たしかに弁護士に依頼していれば、減額できた事案もあるかもしれませんよね。
院生 :不貞行為なんですが、そもそも「不貞行為」って何なのでしょうか。
弁護士:ええ??肉体関係だと指摘していると思うけど。最判平成8年3月26日民集50巻4号993頁は婚姻関係が既に破綻していた場合、不法行為責任を負わないとした有名な最高裁判決だよ。学者では、不貞の慰謝料否定説が通説なので、最高裁としては請求できる要件を厳格化している時流にあるのです。
院生 :ただ、結局、この判例のおかげで、破綻の有無をめぐって紛争の熾烈化を招いでいるような気がしますね。
弁護士:実質的に離婚訴訟のリターンマッチ訴訟になってしまうこともありますね。折角、離婚調停などで円満に解決したのに、不貞訴訟では紛争が激化するパターンですね。
院生 :どうして、紛争が激化するのでしょうか。
弁護士:別の機会のパースペクティブで語り合いたいと思いますが、不貞の慰謝料否定説の影響を受けて、裁判所が破綻の認定時期を早めていて、別居直後でも不貞の慰謝料請求が難しくなっている、という学説の影響が大きいでしょう。
院生 :でも、離婚訴訟では簡単には「破綻」は認められませんよね。最低でも3年とか、5年とかいわれますよね。
弁護士:僕のパースペクティブでは、離婚訴訟の「破綻」と最判平成8年の「破綻」は概念が異なるのではないか、と思います。離婚訴訟の破綻は別居後数年してからしか認められないが、最判平成8年の「破綻」は概念が別居とイコールになりつつあるのではないか、と思っています。
院生 :でも弁護士会の裁判官座談会では、概念は一緒と考えている、とありましたよね。
弁護士:むう。たしかにそうです。ただ、部総括判事クラスだと、最判平成8年でも別居から3カ月で破綻を認めています。学者には3カ月での破綻認定は「早すぎる」という見解も多いのです。なので、破綻は「事実認定」で法的解釈ではありませんので、裁判所の価値観や年齢等も影響するので、表向きは一緒ということなのではないでしょうか。
 個人的には、最終的には、離婚訴訟の「破綻」とは別概念となるか、「破綻」はしているが「信義則上許されない」範囲を広げるか、ということになるでしょうね。
院生 :不貞行為というと、有責配偶者からの離婚請求の法理や慰謝料の問題に直結しますよね。ただ、不貞行為については「肉体関係」なんですよね。
弁護士:そうですね。最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、・・・他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、上記他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある」としています。最判平成8年でも「肉体関係」となっています。肉体関係は辞書的にいえば「性交渉」ということになりますね。
院生 :マレーシアには、アンチソドミー法がありますが、性交渉が罰せられるとなると、その証拠収集はプライバシー侵害なども大きくなりそうですね。どうやって「不貞行為」を認定するかがポイントですね。
弁護士:基本的には、暫定真実といって、ある事実があると不貞行為がある、とか、法定証拠法則といって当事者が弁解しても探偵資料があれば不貞を認定するとか、時流としては、そういう流れになると思います。反対にいうと、性交渉している直接証拠なんて、他人が入手することは難しいですしね。
院生 :最近、弁護士を引退された女性が執筆した本で、高齢者が不貞をできるのか、という話しもありました。
弁護士:理論的には性的類似行為、いわば「口淫」なども肉体関係に入りますから、高齢者は不貞ができるかという問いはナンセンスだと思いますね。
院生 :実務的にはどうですか。
弁護士:裁判所は、年齢やリビドーの強さは観察していると思いますね。高齢であれば不貞を否定する要素となりやすいですし、漠然と当事者の年齢や年齢差は不貞行為の認定にあたりみていると思いますが、明晰に指摘したものはないように思います。
院生 :不貞をしてしまう関係性はどうでしょうか。
弁護士:ダントツで多いのは会社の同僚や上司でしょうね。悩みを相談しているうちに肉体関係を持ってしまう心理学的機序はあると調査官の論文などでも指摘されている「典型」ですね。
院生 :そのほかはどうでしょう。
弁護士:専業主婦の人は会社の同僚ということはないので、同じ趣味・スポーツの集まり、元学校の同級生、最近は出会い系サイトも多いですかね。
院生 :特色はありますか。
弁護士:今井絵理子議員が同僚の神戸市議と不倫をしていたり、山尾志桜里議員(弁護士資格者)が同じ弁護士資格者である弁護士と不倫をしていたり、同僚であるからこそ親密な関係になりやすいのであまり問題はないかなという感じです。むしろ、スポーツの集まり・同級生などの方が、女性が不貞をしたというケースが多いのですが法社会学的見地から妻の不倫の方が分かりにくいというのがありますから、こちらのスポーツや同窓生の方が不貞行為の有無の争いになりやすいですね。
院生 :ちなみに今井議員や山尾議員の一線を越えていないという主張はとおるのですか。
弁護士:そこがわずかに認められる余地があるので断言はできないのですが、裁判所ではほとんど不合理な弁解扱いでしょうね。しかし女性の不貞は発覚しにくいといわれているので、そういう観点でインパクトがあったし弁明も不合理でインパクトがふたりともありましたね。神戸市議の方は辞職されましたし。

院生 :でも「貞操権」とか「守貞権」とか「精力集中提供義務」とかいわれるとなえてきますよね。最判昭和54年3月30日をおさらいしたいと思います。この判例って実は別の判示事項で有名なんですよね。
弁護士:うん、こどもの慰謝料請求を否定した判例で、本林裁判官の反対意見がありますが、最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁なんですよね。現在では当たり前といわれていますが調査官解説を読むと具体的事例においては請求ができる場合もある、としていますが、現在では忘れ去られた議論ですね。やはり家制度は廃止されたのだから、夫婦の問題と母子・父子の関係は区別されるべきという論調が、その後さらに強くなりましたので、今後も未成年者からの慰謝料請求は認める裁判例は、当否はともかく現れないでしょうね。
院生 :この判例を調べると規範的意義があるのは、「妻及び未成年の子のある男性が他の女性と肉体関係を持ち、妻子のもとを去って右女性と同棲するに至った結果、右未成年の子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなったとしても、右女性の行為は、特段の事情のない限り、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない」という点なんですよね。
弁護士:うん、夫婦の一方と肉体関係を持ち、同棲するに至った第三者は、夫婦間の未成年の子に対して不法行為責任があるかという問題について、最高裁が初めて正面から判断を示した判決にすぎないのですよね。だから貞操権侵害の代表的判例と位置付けるのはどうかなとは思います。
院生 :もっとも、差戻しにもなっています。
弁護士:どういう事案か、調べましたか。
院生 :はい。まず事実関係です。
一審原告高橋と訴外長倉とは昭和23年7月20日婚姻の届出をした夫婦であり、両名の間に同年8月15日に上告人空良が、昭和33年9月13日に同開陸が、昭和39年4月2日に徹が出生した、長倉は昭和32年銀座のアルバイトサロンにホステスとして勤めていた第一審被告千見寺と知り合い、やがて両名は互に好意を持つようになり、第一審被告千見寺は長倉に妻子のあることを知りながら、長倉と肉体関係を結び、昭和35年11月21日長女を出産した、長倉と第一審被告千見寺との関係は昭和39年2月ごろ一審原告高橋の知るところとなり、同高橋が長倉の不貞を責めたことから、既に妻に対する愛情を失いかけていた長倉は同年9月妻子のもとを去り、一時鳥取県下で暮していたが、昭和42年から東京で第一審被告千見寺と同棲するようになり、その状態が現在まで続いている、第一審被告千見寺は昭和39年銀座でバーを開業し、長倉との子を養育しているが、長倉と同棲する前後を通じて長倉に金員を貢がせたこともなく、生活費を貰ったこともない、というものです。
弁護士:この判決を正しく理解している人は少ないのですが、一審原告高橋が主張していた最高裁としては、同棲の相手方が害意をもって親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情の有無について更に審理を尽くさせるためであり、高橋さんと長倉さんの間の慰謝料が貞操権侵害とか、夫婦共同生活の平和の維持の審理とは異なるので、この判例を引用する場合は事案を異にするものです。
院生 :本件ですと昭和39年9月に別居し、そのしばらく経過した後、昭和42年から不貞相手と同居しているという案件ですね。
弁護士:今回の被告は、千見寺さんなんですよね。だから、別居から3年も経過しているので、最判平成8年の見地からいっても婚姻破綻は明らかで、現在だと請求は相当難しい事案ですね。ただ、継続的不法行為の観点から、害意をもって親の子に対する監護等を積極的に阻止する場合は賠償が認められるか否かなので、結局、未成年者を理由に賠償請求できるかという問題に還元されるのですね。ですから、不貞の先例として最判昭和54年を頻繁に持ち出すのはどうか、と思いますね。
院生 :だから、一見、貞操権侵害の説示のようにみえる部分に、下級審の裁判所は拘束されないと考えられますね。
弁護士:いわゆる枕営業事件判決も、このような理論的視座からの判決であり、基本的な保護法益は夫婦共同生活の平和と考えるのが妥当ですね。
院生:でも、不貞行為があったのかどうかが争点となっている裁判例においても、貞操権侵害の観点と婚姻共同生活の破壊という観点がありますね。まさにパースペクティブですね。
弁護士:そうなんですね。①最判昭和54年の貞操権侵害の観点と②平成8年の婚姻共同生活の破壊の観点なのです。
院生 :基本的には、最判平成8年で、不貞の保護法益は「夫婦共同生活の平和の維持」と整理された印象がありましたが実際は違う感じがしますね。
弁護士:実は、不法行為における被侵害利益の表現は、最判平成8年を引用するのは1件程度で、24種類くらいの表現があります。もっとも言葉遊びではなく、4つに整理できます。
第一は貞操権侵害、つまり他人と性交渉してはいけないというものでカビのはえた考え方ですね。第二は夫婦共同生活の平和の維持です。家庭が壊れたか否かを重視するわけですね。第三は不貞行為による精神的苦痛です。たしかに夫が他人と性交渉していたとしったときのショックを保護法益としてとらえるのですね。最後は離婚を余儀なくされた離婚慰謝料ということになりますね。
 ただ、実質的に同じものであるのか、そうでないのかは、貞操権侵害という観点と夫婦共同生活の平和の維持という観点からは齟齬も出る可能性がある。それが枕営業事件判決だったわけですね。
院生 :次は、何が不法行為になるかを考えたいと思います。

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