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近親婚の内縁関係でも遺族年金を受け取れる?

 

近親婚の内縁関係でも遺族年金を受け取れる?

 

 

叔父と姪など、近しい親族同士では法律上の結婚ができません。日本では民法により近親婚が禁止されているためです。

しかし「内縁関係」であれば、近親者同士であっても結婚できるでしょう。近親婚の内縁関係で夫が死亡したとき、妻は遺族年金を受け取れるのでしょうか?

 

今回は近親婚の内縁の配偶者が死亡したとき、残された配偶者が遺族年金受給者となれるのか、弁護士が解説します。

 

1.民法によって近親婚は禁止されている

日本では、叔父と姪などの近親者同士の結婚が認められていません。血が濃くなって遺伝的な問題が発生するリスクが高まるうえ、倫理的にも問題があると考えられるためです。

 

民法734条は、以下のような場合を「近親婚」として禁止しています。

  • 直系血族間の結婚
  • 3親等以内の傍系血族間の結婚

直系血族とは「親、子ども、孫」などの直接上下につながっていく血のつながりのある親族です。傍系血族とは、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪など直系でない血族です。

 

このように法律で近親婚が禁止されるため、兄弟姉妹、叔父と姪、叔母と甥などのカップルは、法律婚をしようと思っても婚姻届を受け付けてもらえません。

 

2.近親婚の内縁カップルは存在する

叔父と姪などの血族がカップルになる場合、法律婚を受け付けてもらえないので「内縁関係」となるケースがまれにみられます。

たとえば叔父が妻に先立たれて子どもが残されたとき、子どもの面倒をみる母親がいないこともあって姪と婚姻し、夫婦となる事例が過去にありました。

近親婚は法律上、婚姻届を出せないだけで「犯罪」ではありません。叔父と姪が一緒に住んで夫婦として暮らしていても、取り締まられず、事実上の夫婦生活を送れます。

 

3.内縁の配偶者は遺族年金を受け取れる

内縁の配偶者が死亡したとき、他方の配偶者は遺族年金を受け取れるのでしょうか?

 

この点、一般的な内縁関係の場合であれば、残された配偶者は遺族年金を受け取れます。

国民年金法、厚生年金法においては、遺族年金を受給できる「配偶者」に内縁の配偶者も含まれると考えられているからです。

当事者に婚姻の意思があり夫婦生活の実態が認められるなら、内縁関係であっても「配偶者」として遺族年金を受給できます。

 

4.近親婚は「配偶者」にならない

では叔父と姪などの「近親婚」の場合でも、残された内縁の配偶者は遺族年金を受け取れるのでしょうか?

 

この点については、「原則受け取れない」と考えられています。

そもそも直系血族間や3親等以内の傍系血族間の婚姻は法律で禁止されており、法律婚ができません(民法734)。それにもかかわらず「内縁の配偶者」として遺族年金を受け取れるとすると、民法が近親婚を禁止した意味が減殺されてしまうでしょう。

せっかく近親婚を禁止しても、「遺族年金をもらえるなら内縁関係になろう」と考える人が増えたら民法の意味が失われてしまいます。

 

また近親婚の配偶者に遺族年金を認めると、反倫理的な近親婚を法律が援助する結果にもつながるでしょう。そこで行政通達では、近親婚の配偶者には遺族年金の受け取りが認められていません。

 

たとえば叔父と姪が結婚して叔父が早期に亡くなったとしても、姪は遺族年金を受給できないのが原則です。

 

5.近親婚の配偶者に遺族年金を認めた判例

ただし判例は、例外的に近親婚の内縁の配偶者であっても遺族年金を受給できるケースを認めています(最一小判平成1938日)。

 

5-1.判例の事案の概要

叔父が先妻に先立たれ、先妻の残した子どもの面倒をみる人がいなかったことから姪と叔父が婚姻し、長年内縁関係を続けてきた事案です。夫婦の間には2人の子どもが誕生し、5人家族となって約42年にわたって共同生活を送りました。

夫(叔父)が死亡したとき妻が遺族厚生年金を求めたところ、社会保険庁は「近親婚の配偶者には遺族年金の支給を認めない」として拒絶しました。そこで妻が処分の取り消しを求めて裁判を起こしました。

 

5-2.判例の判断枠組み

最高裁の判断は、以下のようなものでした。

  • 近親婚は民法によって禁止されており、このような反倫理的な内縁関係にあるものには原則的に遺族年金受給を認めるべきではない

最高裁も、基本的には行政通達と同様、近親婚の内縁配偶者には遺族年金の受け取りを認めないという考えをもっています。

  • ただし反倫理性が低いケースについては、保護される余地を認めてもかまわない

直系血族間や2親等以内の傍系血族(兄弟姉妹)については、反倫理性が強く遺族年金の支給を認めるわけにはいきません。一方で叔父と姪や叔母と甥などの3親等のカップルの場合、反倫理性が低く例外的に遺族年金の支給を認める余地があると判断しました。

 

具体的に3親等の内縁配偶者に遺族年金を認めるかどうかは、以下のような要素を考慮して判断すべきと判示しています。

  • 内縁関係を形成した経緯

不相当といえる事情がなければ遺族年金受給が認められやすくなります。

  • 共同生活の期間

期間が長ければ遺族年金が認められやすくなります。

  • 周囲や地域社会の受け止め方

周囲や地域社会から抵抗なく受け入れられていれば遺族年金受給が認められやすくなります。

  • 子どもの有無

夫婦間に子どもがいれば、遺族年金が認められやすくなります。

  • 夫婦生活の安定性

別居などせず安定的に夫婦生活を送っていれば、遺族年金受給が認められやすくなります。

 

上記の要素を全体的に考慮した結果、近親婚を禁止すべき公益的な要請よりも遺族の生活安定を優先すべきケースにおいては、配偶者に遺族年金を認めるべきと判断しました。

 

5-3.裁判所の結論

結論的に、最高裁は原告(内縁の妻)に遺族年金の受給権を認め、社会保険庁へ処分の取り消しを命じました。

5-4 判例の注意点

 我が国においては,かつて,農業後継者の確保等の要請から親族間の結婚が少なからず行われており,このような地域性や慣習に基づき叔父姪間で内縁関係に入った者もあったものと考えられます。
 このような社会的・時代的背景の下に形成された3親等の傍系血族間の内縁については,遺族厚生年金の公的年金という性格を考慮しても,それが形成されるに至った経緯,周囲や地域社会の受け止め方,共同生活期間の長短,子の有無,夫婦生活の安定性等のいかんによっては,反倫理性,反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合もあるものと考えられたのです。
 このような内縁については,近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも,遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるというべきであって,その内縁関係が民法により婚姻が禁止される近親者間におけるものであるという一事をもって遺族厚生年金の受給権を否定することは許されないものと考えられました。
 本判決は,このような見地から,3親等の傍系血族間の内縁において極めて例外的な事情が認められる場合に限り,遺族厚生年金の支給を認める余地があるとの判断を示したものです。
(4)なお,本判決の判示内容等に照らせば,社会的,時代的背景の下に形成されたとはいえない3親等の傍系血族間の内縁関係については,その配偶者に遺族厚生年金を支給することには慎重であるべきものと裁判所調査官の解説があります。

6.近親婚の配偶者が遺族年金を受給できる条件

最高裁の判決が出た後は、下級審においても最高裁の判例にしたがった判断が行われています。

 

また行政通達も改正され、一部の近親婚の配偶者には遺族年金が認められるようになりました。

現在の行政通達の規定内容は、以下のとおりです。

  • 直系血族、2親等間の内縁の配偶者には遺族年金が認められない
  • 3親等の場合には、以下の要件を満たすと遺族年金を受給できる
  • 内縁関係を形成した過程が、社会的、時代的背景に照らして不当とはいえない
  • 夫婦の関係が地域社会、周囲に抵抗なく受け入れられてきた
  • 内縁関係が長期にわたり、おおむね40年以上になっている

 

まとめ

さまざまな事情があって叔父や叔母と内縁関係となっている方もおられるでしょう。近親婚が法律上認められなくても、配偶者が死亡したときに遺族年金を受け取れる可能性があります。お困りの際には、弁護士までご相談ください。

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