熟年離婚でお悩み

夫は弁護士に依頼して、ハーグ条約による手続を取るつもりとのことですが、妻はどのように対応したら良いでしょうか?

フランス人男性と結婚して10歳の子と家族三人でフランスに居住。夫からの暴力により不仲になりその後、夫から離婚裁判が提起されました。夫は子の親権を求めるも、妻が子を連れて日本に帰国して夫に住所を知らせずに監護養育しています。夫は弁護士に依頼して、ハーグ条約による手続を取るつもりとのことですが、妻はどのように対応したら良いでしょうか?

 日本がハーグ条約締結国となったことにより、16歳未満の子について、短期間の手続により返還請求が認められて、子が住んでいた国に返還すべきとの命令が出される可能性があります。妻は早急に弁護士に相談し、返還拒否事由がある場合にはその主張や立証の準備をするなど、返還申立てに備えるべきです。

 

 ハーグ条約とは

 マスコミ報道等で知られているように、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(以下、「ハーグ条約」)が日本でも批准され、その国内的実施法(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実子に関する法律、以下、「実施法」)が平成26年4月から施行されました。東京家裁にもハーグ係が設置されています。

 国際結婚及びその破綻の増加に伴い、諸外国との間で子の連れ去り等をめぐる紛争が表面化していますが、国境を越えた子の連れ去りは、子に様々な悪影響を与える可能性があります。ハーグ条約は、子の利益を最重要視する立場から、そのような子の連れ去りを防止し、元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力を定めた国際的なルールです。これは、居住国から引き離されると子の福祉が害されるという観点があり、原状回復をベースラインにしているのも特色です。

 返還請求の要件

 ハーグ条約では、子が国境を超えて連れ去られた場合に子の返還命令を求める手続と、子を連れ去られた親が子と面会交流する権利の二つについて定められていますが、ここでは返還請求について説明します。

 なお、「留置」(常居所地国から出国した後に常居所地国への渡航が妨げられること)も連れ去りと同様に取り扱われています。常居所地国とは、連れ去り等の直前に子が居住していた国を意味します。

 子の返還請求をすることができる場合の具体的な要件は、以下のとおりです。

  • 子が16歳未満であること
  • 子が日本国に所在すること
  • 常居所地国の法例によれば、子の連れ去りが申立人の子についての監護の権利を侵害すること
  • 子の連れ去りの時点で常居所地国がハーグ条約の締結国であること

 他方、返還拒否事由として以下が規定されています

 

  • 返還申立てが子の連れ去りの時から1年経過後にされ、子が新たな環境に適応していること
  • 申立人が連れ去りの時に現実に監護の権利を行使していなかったこと
  • 申立人が連れ去りを事前に同意又は事後に承諾したこと
  • 子の常居所地国への返還により子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること

このように、返還から1年経過すると、返還は難しくなります。なるべく早く法的措置をとる必要があるでしょう。

具体的には、常居所地国で子が申立人から身体に対する暴力その他心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれや申立ての相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれ、申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情と言った点が考慮されます。

  • 子が常居所地国へ返還されることを拒んでいること(子の年齢等により子の意見を考慮することが適当である場合)
  • 子の常居所地国への返還が日本湖kにおける人権及び基本t系自由の保護に関する基本原則により認められない場合

 以上がハーグ条約・実施法の定める返還請求の要件・拒否事由となりますので、これに照らして返還請求が認められそうであるかどうかを確認する必要があります。冒頭事案では、フランス人の夫が暴力を振るっていたということなので、子に対しても暴力を振るう可能性があるかどうか、母親が子と一緒にフランスに戻った場合に子の面前で母親に暴力を振るうおそれがあるかどうか、子を連れ去ったとされる母親が刑事訴追されるおそれはないか、申立人が薬物中毒・アルコール依存症で子の監護ができないということはないかといった点を検討するべきです。

 

  • 外務省への援助申請

 ところで、ハーグ条約の締結国は、条約上の義務を履行するために、中央当局を指定することとされ、日本国の中央当局は外務大臣とされています。中央当局は、子の迅速な返還を確保し、ハーグ条約の他の目的を達成するため、相互に協力することとされ、具体的には、子の所在の特定、ハーグ条約の適用に関連する自国の法例について一般的情報の提供、法律に関する援助及び助言の提供や便宜を与えることといった措置をとることとされています。

ハーグ条約の締結国から日本へ子を連れ去られた場合、子を監護していた者は外務大臣に対して子の返還を実現するための援助を申請することができます。通常はその者がいる国の中央当局を通じて申請されます。

 外務大臣は、外国返還援助申請があった場合には、却下する場合を除き、外国返還援助決定をし、申請者に対してその旨の通知をします。

 援助申請を受けた場合、中央当局の役割には以下のものがあります。

 

  • 子の所在確認

中央当局は援助申請があった場合に、必要と認めるときは、子の住所又は居所及び子と同居している者の氏名を特定するために、国や地方公共団体その他の関係機関に対し情報提供を求めたり、都道府県警察に対し子の所在特定のために必要な措置を求めることができます。

 

  • 裁判所への情報提供

上記①で得られた情報のうち、子と同居している者の氏名は援助申請者に開示されるが、子の住所又は居所については返還請求等が継続している裁判所に対してのみ開示されます。

 

  • その他、日弁連を通じて、ハーグ条約案件に対応が可能な弁護士を紹介する制度も設けています。

 以上より、冒頭事案のフランス人元夫はフランスの中央当局を通じて、又は独自に弁護士に依頼して、子の返還請求を日本の裁判所に申し立てることを考えているようです。

 

  • 家庭裁判所の手続

 実施法では、ハーグ条約による子の返還請求事件は、東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所のみが管轄を有します。

 家庭裁判所では、基本的には、家事別表2審判事件と同様の審理手続きをイメージしていますが、ハーグ条約では子の返還請求手続きは手続開始の日から6週間以内に決定を行うことを原則としているため、以下の審理スケジュールを予定しています。

  • 申立てから約2週間後に第一回期日を実施し争点整理
  • 申立てから約4~5週間後に第2回期日を指定し、必要に応じて審問等を実施(必要に応じて、第1回期日と第2回期日の間に調査官調査を実施する)
  • 子の返還の申立てに対する裁判は、申立日から約6週間

 

  • 弁護士会の相談窓口等

 子の返還請求を受け又は受ける可能性がある方については、弁護士会で法律相談を受け、必要であれば弁護士に依頼して、申立を受けた場合に備えるべきであると考えられます。特に、先方の国の子の監護権に関する法律の知識や返還を拒否すべき事由がある場合には、それを裏付ける資料を準備する必要があります。

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