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 発達心理として、4歳くらいまでの男児はエディップスコンプレックスの段階に入り、父親と、母親の関心や愛情をめぐってライバル関係に入るとされていました。母親の恋人としての地位を父親と男児が争うことになります。

 しかしながら、男児にとってライバル関係が意識されるようになると、次の段階に入ります。それは男児の側が、父親はとても敵わない存在として映り、母親を独占したいという願望をあきらめざるを得なくなると次のステップに移るとされています。

 それは、父親という理想像に同一化し、父親のようになろうとする段階です。そうすることで父親をポジティブな目標として父親を受け容れることになります。この段階で、男児は父親を好ましい存在として受け入れ肯定的な愛着を形成するとともに、母子分離の過程がスムーズに進むことになります。

 重要なのは、エディップスコンプレックスの次段階として、父親との葛藤を克服して、男児は父親を通して社会を生きていくということになります。

 こどもが社会適応を学ぶことの重要な手段が同一カです。そこで、こどもは理想化した相手に自分を同一化し、多くをまねてしゃべり方や感情の流れまで取り込んでいきます。

 実際、臨床で7歳のこどもをみたことがありますが、この年代までのこどもは父親のしようとしていることをまねようとします。

 重要なのは、こどもの父親と同じことがしたいという欲求を十分に受け止め、満たしてあげることであるといえます。こうして母子分離が実現し社会という現実の仕組みに興味が向かいます。

 もっとも、父親に同一化し続けることも卒業し、思春期になり自我確立への道を踏みださなければならなくなります。このとき男児は父親と同一化するという段階から、父親との距離を持ち、自分自身の自我をもとうとします。このとき、かえって父親が自分の意見を押し付けると、その反発は激しさを増していくことになります。

 離婚や親権の問題を考えるにあたっても、こどもの年齢や傾向を心理学的にみて、協議で決めることが望ましいと思います。つまり、エディップス期の男児の場合、母親が親権を持ち父親との面会交流がままならないと、自分は万能だと思ったり、母親からの分離ができず自律のステップが踏み出せないということもあります。もっとも、エディップス期の男児の場合は母親が親権を持つことが望ましいといえるかもしれません。

 次に、その次のステップである息子の父親の同一化のステップでは、かえって父親が親権を持つことが望ましいといえるかもしれません。それは父親の価値観に基づく発言がみられるようになるからであり、その意見と合同できず「性格の不一致」となった母親と息子は、再び「性格の不一致」となってしまい、家庭内暴力を引き起こしたり、思春期をむかえて性の目覚め、自我の目覚めなどに適切に対応できない可能性が出てくるといえるからかもしれません。

 健全に思春期を乗り越えたこどもは、どちらに親権を持つかはこどもの意向を尊重することが妥当のように思います。自我が目覚めており、健康である限りはその判断にゆだねるという考え方もあるからです。しかしながら、10歳くらいまでのこどもは、エディップス期とそれに続く父親との同一化のプロセスという心理を裁判所はあまり理解していないようにも考えられます。

 理論的には、年齢にもかかわりますが、面会交流といえるかは別として、父親の不在には弊害もあります。まずは母親に対する依存と分離不安です。3歳程度で、こどもは、外界を探索したいという欲求と母親の庇護を受けたいという葛藤で悩みます。このとき父親のエスコートがあると、こどもの分離不安を和らげ外界を探索させることができます。逆に3歳程度で、父親不在となるとこどもは母親に執着し融合してしまうということになります。母親は、こどもにとって心の安心感を与えるものですが、適切な時期に母親分離を遂げないと母親は、心の安心感を与えるものではなく、こどもを飲み込んでしまうという存在になってしまうといわれています。また、父親の不在はこどもに万能感を与えますが、自分を律するブレーキ機能が育たず誇大な万能感や自己顕示欲がそのまま残ってしまい、現実の世界へエスコートする父親の不在により、現実との間に大きな齟齬を生じ、社会不適合を起こしやすくなるのです。

 さらに父母からの庇護ではなく父の庇護が受けられなくなると、社会へのエスコート役がいなくなってしまうという面もあります。父親は現実の厳しさを象徴しますので、父親不在の場合は、白昼夢を見続ける面が出てしまいます。このステップを乗り越えられないと庇護者が少ないのですから、ストレスなどに弱くなり少しでも非難されるととても傷ついてしまう脆弱な面が出てきてしまいます。実は、父親というのは、こどもの自律を促すだけではなく、ストレスからの回復力を高める方向性に誘導するものと考えられています。

 さらに母子家庭のこどもは三者関係が苦手という特徴があります。複数の関係よりも1対1を好みます。そういう状況でしか安心して自分を出せないのです。父親の存在は家族を三角関係にしますが、複数がからんでもその立ち回り方を学び、安心感を持つことができることになります。母子融合の状態が続くと、第三者が邪魔者のようにしか感じられず、母子家庭のこどもには集団不適応の原因となる素因が心理的にあることにも注意しましょう。

 また、複数の中でポジションをみつけることが苦手であることから、1対1の関係でも過剰に相手にいろいろ求めがちで、相手が逃げ出してしまい信頼関係や友人関係を破綻させてしまうということがあります。こうした特性は、自律を妨げたり(母子密着でないといけない。)、パートナーとの安定的関係の形成ができない、三角関係になるこどもとの付き合い方に困惑する、といった問題を引き起こす可能性があります。

 理論的には、三者関係の中で、疎外関係を覚えることなく安心してそこにいるためには、ごく幼いうちから父親との安心した心理的絆をもつことが大切です。このことは三面関係の得意、不得意にも影響を与えますし、ストレス耐性にも影響を与えることになります。

 面会交流についても、次のようなことがいえると思います。つまり、母子家庭では社会適合が難しくなるところ、父親の影響力が期待されるのは、むしろ10代以降という点です。

 思春期までは、父親同化期がなく母子融合の状態でも母親はあまり問題を感じません。しかし、息子の場合は父親への同一化のプロセスを経て、それを乗り越えるというプロセスが重要になってきます。こうした点が欠落して、思春期を迎えても、自我が芽生えることなく母子融合のまま、機能不全の家庭が続いていくと心理的には分析することができます。ある分析では自我発達が優れている群では、父親は終始こどもたちとかかわりをもって、スポーツをして遊んだり、自由に議論をしたりしているということが考えられるのです。

 もっともこれは心を磨いている、家庭においても申し分のない父親に限られますが、面会交流は、思春期までは不要と母親は考えられますし、またそれにより問題も顕在化することが少ないと思います。しかし、思春期以降は自我の芽生えという点で、自我発達が悪くなるという点で、母親との融合を脱して、新たな自我理想をもち、社会の中で自分を確立していくための重要なプロセスといえます。

 この点、司法的な介入は、父母を敵と味方に分けて、往々にして父親を「悪者」に仕立て上げがちでした。たしかに、中には犯罪性向があるなど面会に適しない親がいることは明らかです。

 しかし、思春期までは問題が生じないから大丈夫という理由で面会交流がないと、いざ社会へのエスコートが必要になっても、数年交流のない父親は父性の退化がみられるようになり、こどもへの関心を失っていきがちです。

 ですから、こどもの最善な利益は、司法的なモデルにとらわれず、心理社会科学的レベルで論じられるべきように思います。

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