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 福岡高決平成20年11月27日判時2062号71頁は、連れ去りのみを理由に監護者指定の申立を認めることはできないとした事案であり、結果的に奪取後の現状を維持した。

 原審は、母性重視、兄弟不分離、奪取の違法性を要件として母へ監護者指定を行ったが、抗告審は、離婚訴訟継続中は、子の監護者の指定の審判を求めることができるのは、子の福祉の観点からして早急に子の監護者を指定しなければならず、離婚訴訟の帰趨を待っていることができない場合に限られるとして、本件では監護者の指定は行わないとの判断を行った。

 ここでは、子の監護者の判断により子の生活環境に急激な変化をもたらすこと、子が1年半以上も父の元で監護養育されており安定していること、母との面会交流が実現していることなども考慮されています。

 同じような判断は、広島高裁平成19年1月22日家月59巻8号39頁にもあり、父による暴力が原因で母がけがの治療を行っている間に、父は子を連れて実家へ戻ったという事例です。

 原審は、父の下で子らは順調に成長しており、離婚訴訟で親権者の指定がなされるまでは引き続き父の許にいることが子らの福祉にかなうとして、抗告審も、現在の監護状況を変化させることは、監護の安定性を欠くとしています。

東京高裁平成24年10月18日
 審判前の保全処分としての子の引渡命令は、仮の地位を定める仮処分に準じた命令であるから、著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要とするときに限り発することができるものである(家事審判法一五条の三第七項において準用する民事保全法二三条二項、家事事件手続法一一五条)。
 しかも、審判前の保全処分としての子の引渡命令が発せられると、強制執行が可能となり(家事審判法一五条の三第六項において準用する民事保全法四三条及び五二条、家事事件手続法一〇九条三項)、未成年者に大きな精神的緊張と精神的苦痛を与える可能性が生じる上、後の裁判において審判前の保全処分と異なる判断がされる場合には、複数回にわたって未成年者に精神的苦痛を与えることになる。
 すなわち、未成年者の養育をめぐる夫婦間の紛争において、裁判により未成年者の引渡しが命じられる場合としては、①審判前の保全処分により未成年者の監護者を仮に定めて未成年者の引渡しを命じる場合、②抗告審においてこの保全処分を不当として取り消すとともに保全処分の執行の回復措置として未成年者の引渡しを命じる場合、③監護者を定め、監護者に未成年者を引き渡すよう命じる本案の審判が確定した場合、④監護者を定める本案の審判が確定した後に離婚訴訟が提起され、審判で定められた監護者とは異なる者を親権者と定める判決が確定し、親権者による監護のための必要な処分として未成年者の引渡しが命じられる場合などがある。

 夫婦間の離婚をめぐる紛争が離婚訴訟の判決の確定によって終局するまでの間には、このように数次の裁判が積み重ねられる可能性があるが、その中で異なった判断がされた場合に、そのつど未成年者の引渡しの強制執行がされるときは、未成年者に対して著しく大きな精神的緊張と精神的苦痛を与えることになり、このこと自体が未成年者の福祉に反することになる。したがって、審判前の保全処分により未成年者の引渡しを命じる場合は、後の処分によりこれとは異なる判断がされて複数回未成年者の引渡しの強制執行がされるという事態を可能な限り回避するような慎重な配慮をすることが必要である。加えて、審判は非訟手続であり、口頭弁論制度と三審制の中で審理される訴訟手続とは異なり、事案に応じて柔軟に審理し、即時抗告審の裁判により迅速に権利関係の確定が図られることも考慮する必要がある。

 審判前の保全処分としての子の引渡命令についての以上の法的性質及び手続構造からすれば、審判前の保全処分として未成年者の引渡しを命じる場合には、監護者が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の未成年者の福祉のために未成年者の引渡しを命じることが必要であるかどうか、及び本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるといえるかどうかについて審理し、これらの事情と未成年者をめぐるその他の事情とを総合的に検討した上で、審判前の保全処分により未成年者について引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要するものというべきである。
 三 この観点から前記一に認定した事実をみると、(5)及び(6)に認定の事実からは、抗告人が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるということはできず、(1)、(2)及び(6)ないし(8)に認定の事実からは、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の未成年者の福祉のために未成年者の引渡しを命じることが必要であると認めることもできず、また、本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあると認めることもできず、その他一件記録を精査しても、本件において、審判前の保全処分により未成年者について引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があると認めることはできない。
 なお、原審判は、別居期間中の監護者を相手方とすることが抗告人と相手方の間で了解されていたと認定している(原審判六頁八行目から九行目)〈編注・本号後掲六〇頁三段二二~二四行目〉。しかし、前記一(3)において認定したとおり、相手方は、別居するに際し、離婚届に署名押印したものを置いて、未成年者を連れて実家に帰っているのであり、この事実の範囲を超えて、抗告人と相手方との間に、別居開始から離婚又は別居解消までの間を対象として、未成年者の監護に関する合意ないし了解が成立していたと認めることはできない。

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